研究課題/領域番号 |
19H02212
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
中村 文則 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (70707786)
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研究分担者 |
下村 匠 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (40242002)
神田 佳一 明石工業高等専門学校, 都市システム工学科, 教授 (60214722)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 塩害 / 飛来塩分 / 自然環境 / 劣化予測 / サイバー空間 |
研究実績の概要 |
2020年度(令和2年度)は、前年度に引き続き、沿岸部の自然環境を再現した風・降雨・飛来塩分を作用させた模型実験を実施した。さらに、構造物の環境劣化予測モデルを改良するとともに、実空間・サイバー空間連携システムの一部の開発とその検証のための新たな実験を実施した。 沿岸部の自然環境を再現した実験は、模型周辺の風速分布、降雨到達量、飛来塩分到達量、降雨による洗い流し後の表面塩化物イオン量の測定を行った。降雨作用後のコンクリート表面の塩化物イオン量は、蛍光X線法測定機器を利用して測定した。その結果、短期的な降雨作用では、降雨による洗い流し後の表面塩化物イオン量の分布が、降雨作用前の飛来塩分到達量の分布と大きく差がないことが明らかになった。さらに、実験結果を参考に、コンクリート構造物の環境劣化予測モデルの妥当性の検証を行い、予測モデルの一部の改良を行った。これらの研究成果を査読付論文として整理し、投稿・発表(一部査読中)を行った。 構造物の環境劣化予測モデルの開発と並行して、実空間・サイバー空間連携システムの構築を行った。このシステムは、実空間と連携(同期)したサイバー空間(仮想空間)をパソコンの中に構築し、それを使用してコンクリート構造物に作用する自然環境条件(日射、風、降雨、飛来塩分、温湿度)とそれに応じた劣化状況を予測するものである。2020年度は、サイバー空間を構築するとともに、コンクリート構造物に作用する日射とそれに伴う温度変化について予測を行った。さらに、予測結果の妥当性の検討をするために、新たに鉄筋コンクリート製の実験模型を製作し、実験を実施した。その結果、構築したサイバー空間で予測した結果は、屋外実験で測定されたコンクリート構造物表面・内部の温度変化と一致することが示された。これらの研究成果を査読付論文として整理し、投稿を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019~2021年度の研究期間に、構造物の表面境界における自然環境作用の解明と予測モデルの開発、構造物外部・内部の物理現象を統合した環境劣化予測モデルの開発、実空間・サイバー空間連携システムによる構造物の劣化予測解析を実施する予定である。 2020年度には、昨年度に引き続き、自然環境作用を再現した模型実験を実施し、コンクリート構造物に作用する風、降雨、飛来塩分の到達過程やコンクリート表面での移動過程について検討を行った。昨年度の実験で測定が十分に進んでいなかったコンクリート表面を流れる降雨水と塩分濃度の変化の一部については、再度測定を実施した。さらに、その実験結果を参考に、構造物外部・内部の物理現象を統合した環境劣化予測モデルの改良を行い、その妥当性の検証を行った。その結果、降雨による洗い流し作用を考慮したコンクリート構造物の表面塩分量の分布について明らかにすることができた。 それと並行して、実空間・サイバー空間連携システムの一部の開発を行った。このシステムは、実空間に連携(同期)した3次元サイバー空間を構築し、その中で自然環境作用とそれに応じたコンクリート構造物の劣化予測を実施するものである。2020年度は、3次元測量(レーザープロファイラ測量、写真測量)成果からサイバー空間の構築を行い、その空間内に作用する日射とそれに伴う構造物の温度変化の予測システムの開発を行った。さらに、開発したシステムの妥当性を検証するために、鉄筋コンクリート製の模型を新たに作製し、屋外実験を実施した。 以上より、コンクリート構造物の表面境界における自然環境作用を詳細に再現できる模型実験を実施するとともに、予測モデルと実空間・サイバー空間連携システムの開発を実施し、研究全体がおおむね順調に進展している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2021(令和3)年度は、昨年度に引き続き、自然環境作用を再現した模型実験を実施するとともに、構築した構造物外部・内部の物理現象を統合した環境劣化予測モデルの妥当性の検証を行う予定である。さらに、2020年度に構築した実空間・サイバー空間連携システムに、コンクリート構造物の劣化現象に関連する降雨や飛来塩分の影響を導入し、システム全体の拡張を行う予定である。 自然環境作用を再現した模型実験では、コンクリート表面の水分蒸発と塩分濃縮、それに伴うコンクリート内部の水分と塩分量の移動・浸透過程について詳細に測定を行う予定である。また、沿岸部の実構造物を対象に、構造物表面に作用する日射、温度、降雨および飛来塩分について測定を実施する。その結果と既往研究による調査結果を利用して、構造物外部・内部の劣化促進物質の移動・浸透過程を統合した環境劣化予測モデルの予測結果の妥当性について検証を行う予定である。 実空間・サイバー空間連携システムでは、2020年度に構築したシステムに導入できていない自然環境作用とコンクリート内部の劣化過程についての新たなシステムを開発・導入する予定である。具体的には、自然環境作用としては、これまでの研究で日射と気温の影響を考慮するシステムの構築に成功しているため、降雨および飛来塩分の影響を導入する。コンクリート内部の劣化促進物質の移動・浸透過程としては、降雨による水分と塩分量(塩化物イオン量)を考慮できるように拡張する予定である。構築したシステムは、2020年度から新たに実施している屋外実験の実験結果と比較することで、その妥当性について検証を行う。 2021年度は最終年度であるため、以上の研究成果の取まとめを行い、その成果を学会等で公表していく予定である。
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