研究課題/領域番号 |
19H02219
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
加納 陽輔 日本大学, 生産工学部, 准教授 (50451315)
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研究分担者 |
新田 弘之 国立研究開発法人土木研究所, 土木研究所(つくば中央研究所), 上席研究員 (00355869)
秋葉 正一 日本大学, 生産工学部, 教授 (10267031)
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研究期間 (年度) |
2020-03-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水熱分解 / アスファルト / 性状回復 / 持続的利用 / 亜臨界水 / 舗装発生材 |
研究実績の概要 |
令和2年度の研究では,初段階の学術的問い「老化したアスファルトの性状回復に適した反応条件は?」に焦点をあて,多様な老化アスファルトに対する水熱分解法の若返り効果を究明した. 供試体は,一般的な表層用バインダであるストレートアスファルト60-80を対象とし,製造元が異なる数種類のアスファルトを段階的に熱劣化させて使用した.水熱分解実験は,これまでの研究課題(JPI23760411,JPI26820179)を通じて開発した亜臨界水反応装置を活用し,反応温度330・340・350℃,反応時間10・15・20分による性状回復効果を評価した.回復効果は,反応前後における各種アスファルトの化学的性状と物理的性状をそれぞれ相対的に比較評価し,各性状に対する効果と効率の両面から最適条件を検討した.以下に,令和2年度に実施した評価試験の内容と方法を概説する. 化学的性状に対する回復効果を赤外吸光度および組成分析により確認した.赤外吸光度は,アスファルトの酸化に伴う酸素含有官能基の増加に着目し,フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR試験機)を用いた全反射測定法によりカルボニル・インデックスを求めて,水熱分解法による酸化還元効果を評価した.組成分析は,薄膜クロマトグラフ法(TLC/FID法)により反応前後におけるアスファルトの構成成分比率を把握し,コロイダル・インデックスを求めてアスファルテン分の解膠性を確認した. 物理的性状に対する回復効果をアスファルトの基本的な品質指標である針入度,軟化点,伸度(15℃)より確認した.各試験は舗装調査・試験法に準じて実施し,各測定値から針入度指数を求めてアスファルトの感温性を合わせて把握した. 以上より,令和2年度では多様な老化アスファルトに対する水熱分解法の若返り効果を多面的に捉え,次年度以降はこれを資源に,より実用的な視点から学術的問いの究明を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度までの研究では,新型コロナウィルス感染症の影響により一時的に資材等調達や実験実施に支障をきたしたものの,アスファルト混合物の老化・若返りメカニズムや連続式反応の有効性に関して当初計画を拡充する実績が得られ,全体としておおむね順調に進展している.なお,令和2年度では,計画の一部調整によって研究全体な遅延や停滞を回避したことにより,学術的問いの究明につながる知見を着実に積み重ねることができた.以下に,現在までの進捗状況を概説する. 資材等調達では,感染症拡大の影響による納期遅延や価格高騰を鑑みて,次年度に計画していたFT/IR試験機の調達を優先し,本技術の特長である酸化還元効果に注目することで円滑な研究遂行に努めた.ただし,令和2年度に計画していた分子量分布の測定は,研究分担者が所有するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC試験機)を用いて実施予定であったが,学外活動の自粛要請を受けて次年度以降に繰り越すこととした.そのため,以降の実施に際しては,令和2年度に先行した酸化還元効果に関する知見を資源とし,効果的な条件に絞り込むなどして,研究計画・実績の維持向上を図る. 上記以外の進捗においては,前年度(保留期間)から蓄積した予備実験の成果が支えとなり,特にアスファルト混合物の老化・若返りメカニズムに関して当初計画を拡充する成果を得ている.また,水熱分解法の実用化を視座とした連続式反応の有効性に関して繰返し反応実験や撹拌を伴う実験を試行し,次段階の究明に有用な手掛かりを得た.なお,以上の成果に対して2020年度石油学会論文賞を受賞し,当研究への関心の高まりを追い風としながら,引き続き円滑な研究実施と積極的な成果発表に尽力する.
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」および「現在までの進捗状況」で概説したとおり,現在までの研究実績・進捗ともおおむね順調に進展している.この現状を踏まえて今後の推進方策に関しては,感染症拡大の影響に引き続き留意しながら,適宜柔軟に研究計画の調整や実験条件の精査を行い,計画と実績の維持向上に努めることとする.以下に,今後の研究の推進方策を学術的問いごとに概説する. 初段階(令和3年度まで)の学術的問い「老化したアスファルトの性状回復に適した反応条件は?」に対しては,全体の実績に支障をきたさないよう既に計画を一部調整し,現在も究明に取り組んでいる.加えて,これまでの成果から既往技術および本技術による再生アスファルトに関しては,素材としての初期性状だけでなく,最終製品であるアスファルト混合物として長期的品質を担保する必要性を確認した.そのため,令和3年度では,各種アスファルトに対する回復効果の評価と並行し,アスファルト混合物を対象とした多面的な評価を実施して,より実用的な観点から付加価値の高い最適条件を検討することとする. 次段階(令和4年度から)の学術的問い「老化と回復を繰り返したアスファルトの性状は?」に対しては,令和2年度までの予備実験と研究実績から適切な反応条件の絞り込みと併行し,連続式反応の有効性を確認した.そのため,令和4年度では,この新たな知見を資源として,より効果的かつ効率的な水熱分解法の実用に向け,老化と回復を繰り返したアスファルトがアスファルト混合物の長期的品質に及ぼす影響を評価することとする. 以上の推進方策を実行することにより,本研究課題では,核心的問いである「老化したアスファルトの性状を水熱分解により若返らせ,持続的利用を実現できるか?」の究明を目指す.
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