研究課題/領域番号 |
19H02225
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金 哲佑 京都大学, 工学研究科, 教授 (80379487)
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研究分担者 |
五井 良直 京都大学, 工学研究科, 助教 (30831359)
張 凱淳 京都大学, 工学研究科, 講師 (50751723)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 構造ヘルスモニタリング / 長期モニタリング / ベイズ異常検知 / 情報融合 / 高度化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,従来の構造ヘルスモニタリングの問題点である,「不確定性の高い橋梁の構造同定精度の向上と損傷に敏感な特徴量開発の必要性,判定手法の不足,モニタリング情報と構造物の健全度との関連性の不明」を改善し,構造ヘルスモニタリグの高度化のためのベイズ型構造同定と情報融合法の提案にある. 令和2年度は,初年度研究の成果と問題点を踏まえて「構造ヘルスモニタリングと目視点検情報などの他の情報との融合による健全度推定」の提案を目標に研究を実施しており,検討項目と研究実績は以下の通りである. 1)初年度に構築したベイズ異常検知法の高度化:実橋梁の異常検知の可能性を確認,2)目視点検情報とセンサ情報との関連性のモデル化:鋼橋の腐食についてニューラルネットワークによる枠組みの提案に成功,3)一般人の目視点検と専門家の目視点検との相関性を深層学習によって定量化:テキストマイニングによる可能性を確認しており,土木学会全国大会にて「かけはし賞」を受賞,4)健全度評価におけるセンサ情報の多様化:たわみ角や画像データによる変位の利用について検討しその可能性を確認, 5)中小規模の橋梁への長期モニタリング:斜張橋を対象に短・長期モニタリングを実施している. 関連研究成果を,国際会議にて5件,国内学術会議にて9件,国際専門雑誌に5編,国内専門雑誌に2編の論文を発表している.国内学術会議の土木学会全国大会にて,優秀論文賞2件とかけはし賞を受賞しており,研究成果は高く評価されている.関連学会参加のために旅費についてはコロナ禍で計画通り執行できなかったため,模型橋梁実験および実橋梁の振動計測の充実に有効活用した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度には,以下の通り計画に従い研究が実施された. 1) 時間領域ベイズ同定法とベイズ異常検知法の高度化:センサ数とその配置が,ベイズ異常検知におよぼす影響について検討を行なった.また,従来の方法では異常検知が難しかった,PC橋の振動データを用いた異常検知の可能性を明らかにした. 2) 目視点検による構造物の状態情報とセンサによるヘルスモニタリング情報との関連性を表す状態遷移モデルのモデル化:鋼橋の腐食を想定した構造解析結果を目視点検情報とし,またその振動特性を観測データとし,目視点検と観測データとの関連性についてニューラルネットワークを用いて学習を行なった.予測精度は90%以上の結果になっている. 3) 一般人の目視点検と専門家の目視点検との相関性を深層学習によって定量化:目視点検情報源の多様化と大量化を目的とし,テキストマイニングによる相関性の検討を行なった.コロナ禍で,専門家を招いた模型橋梁を対象とした点検情報の収集に制約があり進捗状況は十分ではなかったもののその可能性は確認している. 4) 健全度評価におけるセンサ情報の多様化:たわみ角や画像データによる変位の利用について検討を行なった.たわみ角については模型橋梁実験で損傷検知の可能性を確認できた.画像データの利用については,画像拡大による橋梁振動の可視化や同定変位によるBWIMについて,可能性を確認している. 5)検討項目の妥当性検討のための中小規模橋の長期モニタリング:小規模の斜張橋を対象に短・長期モニタリングを実施している.提案のベイズ枠組みを用いた,常時振動データを用いたケーブル振動と張力推定が可能であることを明らかにした.長期モニタリンングのために整備したセンサと機器によって長期モニタリングを実施しており,そのデータは次年度に本格的に分析する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度であるR03年度の研究推進について以下の方策を定めることで,研究を進める. 1) R02年度の研究で残された課題に対する対策:目視点検情報とセンサ情報との関連性のモデル化における学習データの確保や解析速度の向上について,損傷種類の追加や代替モデルによる検討など解析速度向上による学習データの確保について検討を継続する予定である. 2) R02に整備した斜張橋の長期計測システムから収集された長期モニタリングデータの分析を行い,センサ情報に混入する季節変動の影響を明らかにする.また,PC橋やRC橋を対象とした,目視点検情報とモニタリング情報との関連性を表す状態遷移モデルについて検討を継続する. 3) 社会へのフィードバックの検討:2年間の研究によりベイズ異常検知法の実証可能性が確認できおり,最終年度は,地方自治体の橋梁管理に役に立つ取り組みとして,地方自治体の橋梁管理者が有用に使えるように,たとえばクラウド上でベイズ異常検知法を利用できるように,検討を進める予定である. R02年度の研究成果については,土木学会論文集,米国土木学会(ASCE)論文集などの権威ある学術雑誌に投稿するとともに,国内外の学術会議に積極的に参加し,成果発表に励む.
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