研究課題/領域番号 |
19H02236
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
乾 徹 大阪大学, 工学研究科, 教授 (90324706)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地下水汚染 / 溶出 / 吸・脱着 / 酸化還元反応 / 重金属 |
研究実績の概要 |
再生資材等の地盤材料としての有効利用の可否や土壌汚染対策の妥当性を適切に判断するにあたって、地中固有の環境条件において土-間隙水界面で生じる有害物質の吸着・脱着作用、およびその結果としての有害物質の溶出挙動の把握が必須となる。本研究では、水分や酸素侵入量や地表面からの距離など、酸化還元反応に影響を及ぼす要因を計測,もしくは制御した条件で溶出試験、吸着試験を実施し、酸化還元反応が重金属の吸・脱着に及ぼす影響が有意となる材料・環境条件の特定や、影響を適切に評価しうる試験法の提案を図ることを目的としている。本年度の主な成果は以下の通りである。 (1) 地質由来の砒素を含有する海成堆積物を対象に,降雨浸透を模擬した散水型カラム浸透試験を長期に渡って実施し,間隙水・浸出水を採水し化学的環境の評価や溶存している化学物質の分析を行った。砒素は継続して長期に渡り溶出することが確認されたが、深度毎の溶出濃度をみると、比較的浅い領域の30cm深さで最も高くなり間隙水の流動距離以外の化学的要因が支配的であった。一方で,50cm以深の領域では、溶存酸素濃度、アルミニウム濃度と砒素濃度の間に緩い相関が認められ、還元環境下におけるアルミニウム化合物の分解によって砒素の溶出が促進される可能性が指摘された。 (2) 化学的、微生物学的に酸化還元電位を制御したバッチ溶出試験により、酸化還元電位が海成堆積物からの地質由来の砒素の溶出挙動に及ぼす影響を体系的に評価した。酸化還元電位が低い条件でもその程度によって砒素の溶出挙動は異なり、-300 mV程度の条件では不溶性の沈殿形成による溶出濃度の低下が見られる。一方、-100 mV程度の条件では還元環境下における鉄・アルミニウム化合物の分解による溶出の増加が確認され、実験後の砒素の存在形態分析からもそのことが裏付けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究スケジュールの面からは、計画した実験については実施することができたが、年度末に新型コロナウイルスの感染拡大の影響により予定していた協力機関での分析作業が完了しなかったため、多少の遅れが生じており、その費用を次年度に繰り越している。 研究成果の観点からみると、本研究の重要なテーマである酸化還元電位の影響を適切に判定しうる溶出試験方法の確立という点において、試験結果の再現性が満足できる水準には至らずに当初計画していた成果が十分に得られたとは言えない面がある。一方で、長期に渡って実施したカラム浸透試験と短期の溶出試験において、海成堆積物からの砒素の溶出挙動に量的、機構的な類似性が確認できたことは、検討している試験方法の妥当性に一定の根拠を与えるものである。また、候補となる酸化還元電位の制御方法については、試験のノウハウも含めて適用の可否が判断できたこともあり、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度の成果を受けて主に以下の2つの課題を対象に研究を展開する。 (1) 酸化還元反応が重金属等の溶出挙動に及ぼす影響とその要因の評価:閉鎖的な環境下での溶存酸素の低下に伴う還元的環境への移行が地盤材料中の砒素、セレン等の溶出挙動に及ぼす影響を化学的条件を制御したバッチ試験試験によって長期的にモニタリングを行う。試験対象試料としては,地質由来の砒素、セレンを含む掘削土砂、人為由来の砒素を含有する汚染土等を予定している。試験においては、酸素との接触、還元剤の添加の有無、有機物濃度を制御し、これらの試験操作が酸化還元電位や溶存酸素濃度、対象物質の溶出濃度に及ぼす影響を把握するとともに、試験結果の再現性の確認を行い適切な評価試験方法の確立に向けた学術的根拠を蓄積する。 (2) 酸化還元反応が重金属汚染対策効果に及ぼす影響の評価:酸化反応によって変質し酸性水を発生する岩石試料を対象として、不溶化材等による酸化反応の抑制や地中環境における重金属の溶出挙動の評価を実施する。特に、浸透水の水量を制御した不飽和環境での溶出挙動を把握することにより、飽和条件下で通常行われる溶出試験との挙動の相違を明らかにする。さらには、長期のモニタリングを行うことにより酸化反応が不溶化効果の耐久性に及ぼす影響を把握する。 以上の成果に基づいて、最終的には本研究の目的である酸化還元反応が特に岩石や海成堆積物に含まれる地質由来の重金属の吸・脱着に及ぼす影響を明らかにするとともに、その影響を考慮すべき材料・シナリオを特定、および酸化還元反応の影響を適切に評価しうる試験法の提案を図る計画である。
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