研究課題/領域番号 |
19H02238
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
古谷 元 富山県立大学, 工学部, 准教授 (80378926)
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研究分担者 |
王 功輝 京都大学, 防災研究所, 教授 (50372553)
渡部 直喜 新潟大学, 災害・復興科学研究所, 准教授 (60282977)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地温計測 / 地すべり動態観測 / 物理探査 / モデル実験 / 地下水の押し出し |
研究実績の概要 |
西井川地すべり地にて,自然斜面内の流動地下水脈に着目し,稠密な1m深地温および多層地温観測,すべり面上の間隙水圧の観測のほか,近隣箇所で雨水温度,降水量の観測を継続した。1m深地温に異常値が生じる個所は,地すべり地内に複数存在しているが,そのうち地すべりブロック中腹部のE7,同上部のI1が豪雨(多量の降水)後に顕著であった。それぞれの個所で異常値と先行降水量日数を検討したところ,E7では8日(夏季のみ),I1では3~4日(夏季および冬季)であった。このような違いは,それぞれの個所における流動地下水脈の経路や深度が異なることが考えられる。 E7近傍の地下水採水孔でサンプリングした地下水の年代測定を実施した。豪雨後に上昇する地下水の涵養年代は,豪雨時における雨水の混合が若干考えられるものの,おおよそ10年前と評価された。一方,小雨時にサンプリングした地下水もその涵養年代は,おおよそ10年前であった。これらの結果より,豪雨時(直後)における地下水の上昇は,対象降雨イベントの浸透水が直接かつ直ちに地下水を形成して生じたものではなく,すでに涵養されたやや古い地下水が押し出されてためと考えられる。なお,吉野川の挟んだ対岸斜面における湧水個所のサンプルも,ほぼ同様の年代であった。 斜面の移動速度予測モデル(LMD法)の開発では,対策が入っていない海外の地すべりにおける観測データとタンクモデルを用いて,地すべりの長期変動予測の可能性に関する検討を試みた。その結果,解析対象期間全体での総変動量は概ね一致するが,任意の期間に区切った場合の変動量は最大数mm/日程度の差異が生じた。この差異が生じる要因については,今後の課題とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ禍の影響により,現地のデータ回収,故障した記録器の交換,豪雨直後の踏査,サンプリングの回数,追加の物理探査の実施,およびモデル実験に制約を受けてしまった。しかしながら,必要最小限のデータの取得,センサのメンテナンス,従前より展開してきた観測データをもとに異常地温と先行降水量の関係に関する検討は実施できた。LMD法に関しては,多少の課題点が浮かび上がってきたものの,長期変動予測の可能性に一応の手応えを得た。
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今後の研究の推進方策 |
現地観測:稠密観測は引き続き継続するとともに,想定している流動地下水脈の経路上で地すべりによる新規のクラックが確認されたので,伸縮計を追加し,この水脈と斜面変動の観測も追加し,データの蓄積を行う。 物理探査:新型コロナ禍の影響が緩和された時期に,19年度の課題としてあげた探査測線を追加して探査(高精度表面波探査,高密度電気探査等)を展開し,より詳細な斜面内部の空間的な硬軟の分布状況等を反映させた土塊構造の可視化を進める。これと並行して土質試験用のサンプリングも実施し,斜面の強度特性を見積もる。 地下水の押し出しに関する計測と再現:地下水の年代分析と化学分析を継続するとともに,モデル試験で現地での降水状況を考慮した上で,試料の粒径・密度と地下水の押し出しの挙動の関係について検討する。 斜面の移動速度予測モデルの構築:いくつかの観測事例に基づいてLMD法を展開し,課題としてあげた問題点の原因について検討するとともに,西井川地すべり地でのデータを用いて移動予測を実施する。
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