研究課題/領域番号 |
19H02247
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
水谷 法美 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (10209760)
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研究分担者 |
中村 友昭 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90569328)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 円形造波水槽 / 数値波動水槽 / 沿岸漂砂 / 海岸侵食 / UAV / Webカメラ / 現地観測 |
研究実績の概要 |
まず,水理模型実験については,円形造波水槽について,直径10.2mの大型円形造波水槽を本学所有の平面波浪水槽内に製作した.造波方法については,造波される波の特徴を勘案し,これまでの小型の水槽で採用した偏心円柱を回転させるタイプとは異なるピストン型造波装置を円周方向に並べることで造波する方法とした.また,平面波浪水槽の実験も可能なように,円形造波水槽は撤去可能でさらに再度設置可能なものとして製作した.本年度は,これまで所有していた直径3mの円形造波水槽の実験と大型円形造波水槽の二つを使った実験を実施した.その結果,来襲波に対して平衡な地形が形成されるまでは岸沖漂砂が卓越し,その後沿岸漂砂が卓越する漂砂特性の時間変化が確認された.また,円形数値波動水槽による数値計算から平衡地形における遡上波の戻り流れと砕波をともなう来襲波の干渉が沿岸漂砂を誘起する可能性のあることが示唆された.また,大型円形造波水槽による実験結果から,ビーチカスプの形成が確認され,また,その際には一方向の2成分合成波に典型的な波群と類似のビートが確認された.これまで生成機構が明らかにされていなかったビーチカスプについて,その解明に繋がる大変興味深い現象が確認された. 数値計算については,これまでのモデルの課題を明らかにし,その一つである造波方法について,造波ソースの導入について改善を行っている. 一方,ドローンとWebカメラによる現地海浜地形変化の観察を三重県七里御浜井田地区海岸で継続的に実施した.特に台風15号,19号に代表される強い台風が通過した際の地形変化に関する観測結果から養浜地形への影響などがデータとして入手でき,その定量的な評価とメカニズムについて考究した.また,併せて現地データの解析精度の向上のための祭キャリブレーション,汀線抽出手法の改善なども実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,大型の円形造波水槽を製作し,それを使った水理実験を行うことを予定していたが,当初の予定通り,直径10.2mの円形造波水槽を完成させ,実験も実施した.その結果,小型水槽で確認された沿岸漂砂の実態,すなわち平衡断面地形が形成されるまでは岸沖漂砂が卓越し,平衡断面地形形成後に沿岸漂砂が顕著になる傾向を確認し,その基礎データの収集も行った.一方,想定していなかったビーチカスプがいくつかのケースで形成されるが明らかとなった.ビーツカスプが形成される条件では2成分合成波のようなビート状の水位変動が観測されることも判明した.これについて,スペクトル解析も行いながら生成機構に対する仮説を立て,その実証を行っている.生成機構が明らかになればこれまで未解明であった問題に解を提示できる画期的な成果となる. 一方,数値波動水槽については,引き続き次のステップへの機能拡張に取り組んでいる.小型水槽を対象としたこれまでの手法では造波境界をソースとして扱えなかったが,実験水槽を大型化することで中心部に減衰領域を確保できるため,この改良を精力的に行っている. また,三重県七里御浜井田地区海岸における現地観測も回数を重ね,観測間の地形変化のメカニズムの考究に取り組んでいる.2019年度は15号台風と19号台風という二つの強大な台風の影響による地形変化が観測され,暴浪時の地形変化の実態について貴重なデータの入手が行えた.これについても詳細な検討を継続して行っている.また,Webカメラによる汀線観測についても画像解析による汀線抽出手法の改良,オルソ画像制作時の精度向上も実施し,より信頼度の高い解析を可能とするなど手法の改善を実施した.
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今後の研究の推進方策 |
水理実験では,入射波の周期,海浜地形の形状など条件を変化させた実験を可能な限り多数行い,沿岸漂砂の発生に至るまでの詳細なプロセスの実態解明を継続して行うとともに,ビーチカスプの生成機構の解明にも注力する. 円形数値波動水槽については,まず造波ソースの導入を行い,長時間安定した造波が可能となるよう改善を行う.ついで,FS3Mで導入されている砂移動のモデルを導入に,波にともなう漂砂の実態を数値解析からも明らかにする.また,併せてビーチカスプの生成に重要な寄与が想定されるビートウェーブの生成機構についても数値計算から明らかにする. 七里御浜井田地区海岸における現地調査についても,今年度も継続して実施するが,併せてこれまで蓄積されたデータについても新たな汀線抽出手法を適用し,再検討も行う. これらの3つの観点から行う海浜地形変化のメカニズムについて,それぞれの結果を統合して現地における漂砂の発生とそれにともなう地形変化の生成機構を考究して現地で何が起こっているのかを明らかにするとともに,海岸侵食の対策工法として有効な手法を考究する.
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