本研究は、河川汽水域の潜在的な環境構造を解明するため、広域的な現地調査によって河川汽水域の環境構造を明らかにし、地形的要因や人為影響等の環境要因との関係を解明したものである。東日本に位置する85河川の地形測量、物理環境調査及び河床材料の粒度分布調査を行った。現地調査及び統計解析の結果、水域の生息場構造は、川幅水深比、河床縦断の凹凸度、流路の蛇行度及び低水路の比高差が大きい河川でより複雑となる傾向が確認された。特に、水域の生息場構造のうち、早瀬の割合が大きい河川では、川幅水深比が大きい傾向がみられた。加えて、河川汽水域の早瀬の出現は、流域の地形要因とも強い関係があり、流域の起伏量が大きい河川で出現する傾向がみられた。よどみ及び淵といった止水域は蛇行度が大きい河川で確認された。また、川幅水深比、河床縦断の凹凸度、及び流路の蛇行度が大きい河川では、河床材料の粒度の幅が広く、多様な陸域の生息場構造がみられた。人為的インパクトと生息場構造の関係を解析した結果、河川改修により川幅が低下した河川で生息環境の多様性が低い結果となったが、土地利用等の間接的インパクトとの明瞭な関係はみられなかった。上記の研究に加え、生態学的な評価を実施するため、下北・津軽半島、房総半島、種子島の3地域を対象に、魚類相と物理環境の関係解明を行った。その結果、魚類相は、生息場の物理環境に加え、海流の影響や地史的な汽水域の形成過程の影響を顕著に受けることが明らかにされた。加えて、河口閉塞を生じた河川汽水域の魚類相が顕著に劣化されていることが示され、河川汽水域の環境保全に際し、河口砂州の動態といった動的な要因が重要であることが示された。
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