研究課題/領域番号 |
19H02263
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
柿本 竜治 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (00253716)
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研究分担者 |
神谷 大介 琉球大学, 工学部, 准教授 (30363659)
吉田 護 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (60539550)
塚井 誠人 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 准教授 (70304409)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 避難行動 / 自然主義的意思決定 / 二重過程理論 / 状況認識の失敗 / 防護動機理論 / 豪雨災害 / アンケート調査 |
研究実績の概要 |
自然災害リスクの認知が高くても,適切な防護行動を取らない自然災害リスク認知のパラドックスが存在する.リスク認知のパラドックスの存在は,避難遅れが頻繁に発生している豪雨時の避難行動を慎重な思考による行動として取り扱うことに疑問を投げ掛けるものである.そこで,本研究では,状況認識を重要視している自然主義的意思決定モデルを援用し,豪雨時の避難行動の意思決定過程が表現できるプロトモデルを構築した.豪雨時に周辺状況は時々刻々と変化するが,その周辺状況の認知とともに水害発生への意識も変化する.そこで,避難実行までの時々刻々と避難意識が変化するモデルを構築した.モデル構築に際し,説明変数に,時間的に推移する状況認識を取り入れた.具体的には,平成24年7月の九州北部豪雨の際に熊本市内で浸水被害を受けた龍田地区の住民を対象に避難実行までの意識変化を表現できるモデルを構築した. また,昨年度実施した2018年7月の西日本豪災害で被災した地域を対象に避難に関するアンケート調査のデータを使用し,気象情報,避難情報の取得から豪雨時の避難行動までの流れを,二重過程理論の2つのシステムを考慮したフレームに整理することが出来るか検討した.具体的には,気象情報や避難情報の取得から避難までの流れを,防護動機理論(PMT)に基づいて整理するとともに,そこにヒューリスティックな意思決定の一つである自然主義的意思決定(NDM)の考え方,その中でも状況認識(SA)理論を援用した.その結果,豪雨時の避難行動を,防護動機理論に即して避難意思が高くなり避難の実行を行う能動的な避難と避難意思の高低に関わらず被害の発生や呼びかけがトリガーになって避難する受動的な避難に整理することが出来た.さらに,受動的な避難や避難遅れを状況認識の失敗の視点から整理し,PMTにSAの失敗を考慮した避難行動分析の枠組みとして示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の計画では,豪雨災害時の避難行動の意思決定過程を,人のヒューリスティックな意思決定モデルの一つであるNDMモデルによりモデル化することであった. そこで,まず,NDMモデルの中で重要視されている状況認識(SA)を説明変数として取り込み避難実行までの意識変化を表現できるモデルの構築した.平成24年の九州北部豪雨時の住民の避難意識の時間推移に適用し,その状況を再現できることを実証した. さらに,防護動機理論(PMT)と自然主義的意思決定(NDM)の考え方に基づき豪雨時の避難意思決定行動を整理し,PMTにSAの失敗を考慮した避難行動分析の枠組みを構築した.状況認識(SA)は,豪雨災害時の避難行動を決める際に重要であるが,SAは,災害が進行する時間経過の中で変化する.そこで,令和2年7月豪雨時の避難意思決定に影響した災害発生に関わる状況認識(SA)の時間推移を調査・分析した. このように,当初の計画どおりに研究代表者も分担者も課題に取り組んでおり,また,順調に成果も得られている.以上より,「おおむね順調に進展してい る.」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には,2020年度に策定した避難行動分析の枠組みに従い,豪雨時の避難行動を分析し,避難行動リスク監査を行う.避難行動リスク監査では,まず,豪雨災害時の避難行動の現状を分析し,そこに潜む認知的バイアスを整理する.そして,PMTモデルを用いて,平常時と豪雨時で「脅威評価」や「対処評価」が変化するのか分析し,認知的バイアスの影響を検証する.2020年度までの調査分析から,豪雨時の避難遅れの要因の一つに,状況認識の失敗があることが明らかになった.そこで,NDMモデルにおいて,3つのレベルのSAを分析し,各レベルで生じた状況認識の失敗がどのような認知的バイアスに起因しているのかを明らかにする.そして,人の意思決定バイアスに逆らわないことを念頭に,適切な避難行動に誘導できるインセンティブと学習・啓発とを組み合わせた対応策を作成する.避難行動リスク監査において示される対応策については,豪雨時にごく自然な選択行動がより安全な行動となるような意思決定環境を用意することやそのような行動を促す学習・啓発を念頭に置いている.そして,その対応策を施した状況をPMTモデルおよびNDMモデルに与え,その効果を検証する.
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