研究課題/領域番号 |
19H02265
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
内田 敬 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (60203535)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バリアフリー / ユニバーサルデザイン / 歩行支援 / VR(Vertial Reality) / AR(Augmented Reality) / バーチャル散歩実験 / スマホアプリ / 効果音 |
研究実績の概要 |
晴眼者がテレビの旅番組やgoogle「ストリート・ビュー」で享受している疑似旅行・外出体験と同様の経験機会を、視覚障碍者に聴覚情報で提供すること(「ことばの観光ガイド」構築)を企図した研究である。視覚障碍者が屋外で歩行するときの即地的支援情報「ことばの地図」に関する研究蓄積を基盤として、聴覚版「ストリート・ビュー」とも称すべき音環境VR(Virtual Reality; 仮想現実)システムを構築していく。 早期実用化を目指して要素システム・機器は既存・市販のモノを活用し、視覚障碍者(約30人)を研究協力者として、試用実験を繰り返すことで、逐次的にシステム改善を進めていく。研究期間前半の到達目標【目標1】は、視覚障碍者が自宅(着座姿勢)で試用できる「ことばの観光ガイド(簡易版)」の作製である。後半は、【目標2】音環境を模擬する3Dモデリングに取り組んで、視覚情報なしのVR体験の可能性・限界に関する初期段階の検討を行う。 第2年度(2020年度)は、上記【目標1】について、第1年度に引き続いて対象地拡充と、空間・まちの特性・魅力を伝えるために必須・有用な環境音・効果音を究明する研究活動を行った。対象地は身近な非日常空間を2地点―京都の著名な寺院参道地区と空港に隣接した都市公園―を取り上げた。寺院参道地区においては、観光客の会話、店舗の呼び込み、雑踏音の効果を検証した。臨空都市公園に関しては、来園者の歓声、園内アナウンス、草むらの虫の音、飛行機の離発着音が、被験者に認識可能かつ有用であることを検証した。これらの研究成果は、査読付き論文ならびに学会発表として2020年度に発表し、2021年度にも学会発表するべく準備を進めている。 上記【目標2】に関しては、前年度に整備したUnity上の初期3Dシステムを、現実都市の環境音を取り込める仕様に改良し、第3年度の研究準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の基本的なアプローチは、視覚障碍者(約30名)を研究協力者として、試用実験を繰り返すことで研究を進めていく。上記の【目標1】【目標2】はその学術的な内容からは、目的1~目的3に再構成される。このうち【目的1】:屋内(着座)で街歩きを疑似体験する音環境VRシステム(簡易版)の構築と、【目的2】:音環境VRシステムで用いる現地環境音の採録手法の確立は相互に密接に関係することから、3か月程度の周期でスパイラルアップしていく。対象地は申請者の所属大学周辺(大阪市内、京都、神戸など)とし、現地環境音の採録や「ことばの地図」データの取材・作成には、研究補助者(学生を雇用する)を充てる。【目的3】:屋内(任意姿勢)で街歩きを疑似体験する音環境3Dモデリングの開発に関しては、研究期間の後半に、プログラミング実務者に研究協力を求め、さらにコーディング作業は外注(業務委託)して、実験システムを作成・改良していく。 年次的な研究計画においては、第1年度(2019年度)は【目的1】、【目的2】に係る研究を中心にして進め、これらについて第2年度に一定の成果を得ることを目指すこととした。【目的3】に関しては、第2年度後半から、【目的2】に関する成果を活用して、本格的に取り組むこととした。 上記「6.研究実績の概要」に示す様に、第2年度は【目標1】(【目的1】、【目的2】)に関して着実に研究を進め、目標を概ね達成した。その成果は上記の通り学界発表したのみならず、『点字毎日』(2021年1月31日号)に取り上げられた。更に、2021年度前半にはオンラインで「ことばの観光ガイド(簡易版)」コンテンツの試行配信を行う予定である。また、【目的3】(【目的2】とともに【目標2】を構成する)の準備も進捗した。 以上より、「おおむね順調に進展している」。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、当初の研究計画に沿って、おおむね順調に進展していることから、このまま進め、2021年度は、3Dモデリング(【目標2】)に関する研究を本格化する。 なお、今般のCOVID-19の流行の結果、昨年から今後数年は3密対策が必須であり、視覚障碍当事者に協力を求めることや、現地におけるビデオ取材などに支障が生じる可能性がある。しかし、これまでの経験を踏まえると、現地取材は1人でも可能(理想は3人態勢)であり、視覚障碍当事者には1人ずつ(同行援護者を加えると2人で)お越しいただくことで必要な情報は得ることができる。従って、極端な外出規制が施行されない限り、通常の感染予防策を講じるのみで研究遂行が可能である。また、仮にロックダウン状態になった場合には、リモートワークが可能な(むしろ、ふさわしい)3Dモデリングに注力することとして、スケジュールを調整し、研究課題全体の最終目標達成を期すこととする。 実際に2020年度は、第1波と第2波の間(6月~11月)に現地取材を、当初は4地点を対象として進め、最終的に2地点のコンテンツを完成することができた。また視覚障碍当事者に協力を求めて実施する試用実験に関しては、zoomを用いた遠隔実験に積極的に取り組み、2020年11月から徐々に遠隔実験を試行し、2021年1月には対面実験に準じる実験内容を遠隔実験で実施するための手法・ノウハウを確立することができた。 以上の通り、当初計画を予定通りに進める見通しが立っている。さらに、遠隔実験手法の確立という当初想定を超える成果も期待できる。
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