昨年度の成果を踏まえ,以下の研究を遂行し知見を得た. ★日常的な運転挙動をドライブレコーダで記録,分析することで,教習所内での非日常の運転と自身が所有する自動車での運転との相違を検証した.その結果,認知機能の落ちている高齢ドライバーは,運転技能とは直接関係しない行動(シートベルトを締め忘れる等)が非日常時にも発現することがわかった.また,日常的に運転する近隣で,運転のムラが大きいことがわかった. ★高齢ドライバーの身体機能のうち,手・腕と脚の身体測定を実施し,運転評価に及ぼす影響を分析した.その結果,急ブレーキの制動距離と脚力には関連が見られなかったものの,認知機能と手・腕の測定値には関連性があることが明らかとなった.一方,アンケート調査により,高齢ドライバーは免許返納後には自転車あるいは徒歩を中心として移動することを想定しているものの,自身は現状で手・腕や脚の衰えを自覚していないことが明らかとなった.このことから,自動車の運転のみならず,自転車等の運転にも身体機能が影響する可能性があるにもかかわらず,高齢者自身がその能力の低下を自覚しにくく,免許返納後の移動手段の身体的制約を知る機会,あるいはそれを補完する対策が必要であることを示した. ★高齢ドライバーの実走中の標識の視認行動を調査した結果,右左折する直前の標識の身を意識し,それ以前の予告看板は視認していないことが明らかになった.わかりづらい線形の交差点に対して予告看板を多く設置しても高齢ドライバーの運転に及ぼす影響は少なく,別の情報提供の可能性を検討すべきことが示唆される. また,本研究の成果を学会で発表し,意見交換を行った.特に自動車製造業や医師との意見交換を行い,高齢ドライバーの運転に関わる環境について,あるいは身体的な特徴について助言を受け,今後の実験への示唆を得た.
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