研究課題/領域番号 |
19H02274
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原田 英典 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (40512835)
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研究分担者 |
藤井 滋穂 京都大学, 地球環境学堂, 名誉教授 (10135535)
浅田 安廣 国立保健医療科学院, その他部局等, 主任研究官 (60610524)
山内 太郎 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (70345049)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サニテーション・プランニング / 都市スラム / 下痢 / 曝露・リスク解析 / アクション・リサーチ |
研究実績の概要 |
本研究ではサブサハラ・アフリカの都市スラムを対象とし,ヒト糞便の拡散・曝露とサニテーションの下痢低減効果のモデル化を行い,都市スラムでの拡散および曝露の特性を明らかにする。さらに,簡易モデルにより住民自らが生活環境の簡便な糞便汚染検査を実施し,多様な経路からの糞便の曝露を視覚的・直感的に提示することで,衛生改善策の主体的な策定が可能な新しい参加型サニテーション・プランニングの方法論を提案する。当該年度も引き続き,スラム問題が深刻なサブサハラ・アフリカで,最近もコレラが発生した一方,治安の面から調査可能なザンビアのルサカを主フィールドとした。前年度までに取得した試料およびデータを用い,糞便曝露の確率論的モデルの一部として,トイレ管理および廃棄物管理と家庭貯留飲料水および台所食器・コップの糞便汚染との関係性を一般化線形混合効果モデルで表し,その定量的影響を明らかにし,この成果を出版した。また,家庭貯留飲料水,環境水,台所食器・コップ,および多地点から採取したハエを試験に供し,サブサハラ・アフリカにおける下痢の主要な原因病原性微生物であるロタウイルスおよびクリプロスポリジウムを検出し,指標微生物である大腸菌のみならず,下痢を引き起こす病原性微生物が生活環境中に広く広がっていることを定量的に明らかにし,リスク解析のためのデータを集積するとともに,この成果を出版した。さらに,糞便ホストの区別として,ヒト由来糞便の割合を推定するための遺伝子マーカーのデータをまとめ,これを評価し,この成果を出版した。さらに,住民の若者グループとのアクションリサーチ実現に向け,国内およびルサカ都市周縁貧困地区の現場において,試作したアプリを用いた参加型簡易検査,曝露シナリオ設定,および曝露解析の試行的利用を試み,その改善のためのフィードバックを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いくつかの成果の中でも特に中核的な成果として,トイレ管理および廃棄物管理と家庭貯留飲料水および台所食器・コップの糞便汚染との定量関係に関する論文出版,さらには,サブサハラ・アフリカにおける下痢の主要な原因病原性微生物であるロタウイルスおよびクリプロスポリジウムが生活環境中に広く広がっている定量的実態に関する論文出版を達成することができた。コロナ禍で長期に渡りアフリカのフィールドに渡航して現地調査をできなかった中でも,これまでに集積したデータを最大限活用して解析を進めてきた成果であり,研究が順調に進み出した証左と言える。さらに,ようやくコロナ禍でも海外渡航が可能になり,開発を進めていた,住民による参加型調査を含めたサニテーション・プランニングを支援するアプリをルサカ都市周縁部の未計画居住区(スラム)の住民に試用することができた。これにより,地域住民にとって実効性のある方法論とするための課題を抽出することができた。これは,本研究の目的を達成するために不可欠のステップであり,研究が順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍が始まって以来,海外フィールドでの活動を主たる活動内容と予定した本研究にとって難しい状況が続いたが,海外渡航に基づく現地活動がようやく再開した。海外フィールドに行けないながらも,すでに取得していたデータや試料から可能な限りの成果を生み出し,研究を進めてきたが,現地活動が必須であった研究部分をようやく進展させることができた。これにより今後ますます研究が進展することが期待される。具体的には,現地調査によるフィールドでの追加試料・データの取得を行うとともに,糞便の拡散についてのモデル化に関する成果をまとめる。さらに,住民自らが衛生環境を簡易測定可能なツール群の開発として,水・衛生の意義の理解,身近な媒体の汚染度の簡易検査,曝露シナリオ設定および曝露解析,その可視化を一連のセットとする住民の若者グループとのアクションリサーチを支援するアプリを改良し,仮運用する。これらの成果から,住民参加型の量的調査に基づく,新しいサニテーション・プランニングとしてまとめる。以上により,本研究の目的の達成を目指す。
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