研究課題/領域番号 |
19H02275
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
島田 洋子 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00314237)
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研究分担者 |
米田 稔 京都大学, 工学研究科, 教授 (40182852)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 福島第一原子力発電事故 / ライフスタイル / 生活時間 / 被ばく線量 / 森林 / 健康リスク |
研究実績の概要 |
本研究は、性別・年齢・職業などの住民の多様性に即した生活パターン別に、福島第一原発事故の被災地の住民の事故後の生活シナリオを設定して、住民の多様な生活パターンを考慮した被ばくおよび被ばく以外の健康リスクの総合的な定量的評価を行うことを目的としている。 今年度は、昨年度に実施した、福島県川内村の住民の生活行動が事故前と事故後でどう変わったかを、外部被ばくに関わる屋外での行動を詳細に分類した生活行動分類による事故前と事故後の生活行動別滞在時間と滞在場所、事故前と事故後の住民の森林食材摂取量の変化についてのインタビュー形式のアンケート調査によって得られたデータベースを使用し、設定した性別、年齢階層および職業の組み合わせで特徴付けられたいくつかのグループによって構成されているとみなした個人分類別の個人分類別の生活行動と滞在時間で構成される1日の生活時間配分パターン別の屋外滞在時間を算出し、公表されている事故後の環境モニタリングデータを用いて、事故後に事故前と同じ生活行動を行った場合の個人分類別の外部被ばく線量を算出した。また、事故前と事故後の住民の森林食材摂取の変化による内部被ばく線量の減少率についても算出した。 一方で、住民の1日の滞在場所と滞在時間を決定する居住区域の住居、学校、公園、森林等の配置パターンを示す街モデルを設定し、今後の森林除染の効果を土壌表面におけるバックグラウンド放射線による影響も効果して組み込んだ空間線量評価モデルの構築をめざして、まずは森林に囲まれた平地における森林からの空間線量と森林除染による空間線量率の低減を定量的に計算できるモデルを構築した。 以上の成果から、事故後の住民の様々な生活シナリオ(事故後と同じ生活に戻ることも含めて)を設定し、個人分類による生活行動パターン別の外部被ばくによる健康リスクを評価するモデルの構築の準備を整えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、3年間で、福島第一原発事故の被災地における住民の多様な生活パターンを反映した被ばくによる健康リスクと被ばく以外の健康リスク評価を行い、帰還後の生活シナリオを設定して、除染の進捗状況による環境中の放射能レベルの変化と事故後の生活環境の変化を考慮した健康リスク評価を行うことを目標としている。2年目の今年度は、昨年度実施したアンケート調査データの分析を踏まえて、事故後に事故前と同じ生活行動を行った場合の個人分類別の外部被ばく線量を算出し、また、住民の1日の滞在場所と滞在時間を決定する居住区域の住居、学校、公園、森林等の配置パターンを示す街モデルの設定による空間線量評価モデルの構築をめざして、森林に囲まれた平地における森林からの空間線量と森林除染による空間線量率の低減を定量的に計算できるモデルを構築し、当初の計画に沿って研究を遂行できている。しかしながら、今年度の時点での研究の成果のうち、森林除染による空間線量率低減の評価については学会で発表したが、アンケート調査によるデータの解析結果については、論文としてまとめて学会誌に投稿する前に、アンケート調査を実施した自治体に出向き、役場の担当者にその調査結果と研究の進捗状況を詳細に報告して、調査結果のデータを研究論文に示す許可を得るという当初の予定が、新型コロナウイルス流行によって、報告に出向くことができなくなり、論文発表は来年度になる予定である。とはいえ、今年度の研究は、研究の最終目標に向かって順調に遂行できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2021年度は、本研究の最終目標である、被ばく線量評価と被ばく以外の線量評価との総合的なリスクの評価を目指して、被ばく以外の健康リスクに関する疫学的調査研究を行っている研究協力者2名が参加し、研究協力者らが行った福島県川内村1地域の調査データに加えて、被災地地域における食生活に関わる統計調査のミクロデータを用いた詳細な個人分類による解析も踏まえた、食生活のライフスタイル変化による健康リスク評価モデルを作るために、厚生労働省が実施している「国民健康・栄養調査」の事故前から最近までの毎年の調査結果のミクロデータの使用を申請して、そのデータの統計的データ解析結果と、今年度までに把握した事故前と事故後の生活パターンを比較して生活時間配分の変化(例えば、事故後の屋内滞在時間の増加、運動等リクレーション時間の減少等)の分析結果を踏まえて、避難生活や被ばくを避けるための生活行動が及ぼす健康影響を、障害調整生命年(DALYs)とQOL指標などを用いて評価を試みる。 最終的に、個人分類による今後の様々な生活シナリオ(事故前の生活に戻る、被ばくを避けることを最優先する、屋外の滞在時間を事故前より減らす、森林への立ち入りを抑制する、除染による林業の復活など)を設定し、シナリオごとに、除染の進捗状況による環境中の放射能レベルの変化と帰還後の生活環境の変化を考慮した被ばくと被ばく以外の健康リスクの総合的な評価を行う予定である。さらに、研究の成果を、国内はもとより海外におけるリスク研究発表の場や市民とのリスクコミュニケーションの場に積極的に出て発信することを予定している。
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