研究課題/領域番号 |
19H02280
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木村 祥裕 東北大学, 工学研究科, 教授 (60280997)
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研究分担者 |
古川 幸 東北大学, 工学研究科, 助教 (30636428)
吉野 裕貴 仙台高等専門学校, 総合工学科, 助教 (70756428)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 制振構造 / 合成梁 / 有限要素解析 / 繰り返し載荷事件 / 局部座屈 / スタッド接合部 |
研究実績の概要 |
建築学会から刊行された鋼構造制振設計指針(2014)では,制振鋼構造骨組を構成する梁,柱の要求性能が示されているが,特にダンパーを有する制振構面における梁や柱の保有性能に関する研究成果が乏しく,極めて安全側の指標を設定している。一方,建物における多くの梁には,コンクリート床スラブが取り付き,大地震時に梁が局部座屈や横座屈を生じる際,高い補剛効果を発揮すると考えられてきた。しかし,地震時には床スラブも大きな繰り返し応力を受け,剛性や耐力が引張時には大きく低下し,圧縮時には回復するというメカニズムを繰り返し,徐々に性能が低下していく。そこで,合成梁や柱の保有性能をより高精度に評価するとともに,制振構面と非制振構面の応力伝達機構を解明することを目的としている。 スタッド接合部は,特に引張応力作用下においてスタッド埋め込み部からコンクリートひび割れを生じる。そのため,地震時におけるスタッド埋め込み部の性能は,これまで行われてきた一方向にせん断力もしくは捩り力のみを作用させる場合と異なる。そこで,面内・面外方向に繰り返し荷重を作用させる載荷実験・有限要素解析により,面内載荷を受ける場合にはスタッド接合部の補剛効果が低下することを示した。 これまでの純鉄骨梁,スタッド接合部の各要素に対するキャリブレーション結果を統合し,制振構造物の一部を取り出した部分架構に対する有限要素解析を行った。さらに,通常実験では計測できないスラブの有効幅やスタッド―スラブ間の支圧力について分析することで,制振構面の鉄骨梁の保有性能に床スラブが与える影響を明らかにした。さらに,スタッド諸元,スタッド本数,鉄筋諸元,鉄筋配置,ダンパー軸力に対するパラメトリックスタディ結果に基づき,床スラブとの合成効果を反映した梁の保有性能評価式を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には,繰り返し応力下における連続補剛された梁の横座屈挙動を載荷実験及び有限要素解析により明らかにし,既往の研究で提案した一般化細長比を適用し,梁の横座屈耐力,塑性変形能力及び累積塑性変形能力の評価を試みた。その結果,補剛剛性を求めることができることが前提で,評価式の妥当性が示された。 本年度は梁からの曲げモーメント,軸力による作用応力により,ひび割れ・抜け出しを生じるスタッド接合部の力学性能を評価した。床スラブとH形鋼梁の一部を取り出し,床スラブには梁の面内曲げモーメントに相当する繰り返し応力を与えつつ,梁には横座屈を想定した捩り変形を与える載荷実験を考案した。また,試験体部分を取り出したモデルの有限要素解析を構築した。その結果,スタッド接合部が面内・面外方向に対する繰り返し応力を受ける場合に,捩り変形のみを受ける場合に比べて,最大耐力,回転剛性が低下し,最大耐力後の劣化勾配も大きくなることを明らかにした。そこで,面内・面外応力を受ける場合の力学的相互作用を反映した最大耐力,回転剛性評価式を新たに提案した。 ここまで得られた連続補剛効果と繰り返し応力下における床スラブの剛性・耐力の変化に関する知見を踏まえ,床スラブ・H形鋼梁・柱-ダンパー系より構成される部分架構の有限要素解析モデルを構築した。既往の繰り返し載荷実験結果を基に,材料構成則をキャリブレーションし,ダンパーからH形鋼梁,床スラブへの変動軸力,柱フェイスから床スラブへの支圧応力,梁からスタッドを介し,床スラブに伝達される曲げモーメントなどの応力伝達機構を詳細に把握した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究成果を踏まえて,以下の項目を遂行する。 1)制振構面における合成梁及び柱の応力伝達と梁崩壊型を形成する梁及び柱の要求性能評価 現行の設計指針では,Level 2地震動での梁及び柱の塑性率は,その保有性能の半分以下にとどめることとしているが,同一層間変形角における梁と柱の応力負担や変形の割合は明らかにされていない。そこで,今年度構築したモデルを拡張した層モデルを構築し,床スラブからの支圧応力,がセットプレート,柱スティフナを介したダンパーからの変動軸力が柱の局所損傷に与える影響を明らかにし,地震動(水平力)による作用曲げモーメントに加え,これらの応力を考慮した柱の塑性変形能力を評価する。そして,合成梁(床スラブ+H形鋼梁)の保有性能及び応力伝達機構の知見を踏まえて,床スラブ及びガセットプレート,柱スティフナとの接合部による局所応力を緩和するためのディテールの検討と,想定外地震動であっても梁崩壊型となるための柱の要求性能を明らかにする。 2)激震時の制振鋼構造骨組における制振構面と非制振構面の応力伝達機構の解明と骨組の安定性の検討 本研究では,立体解析モデルにより地震時に水平力分担(水平剛性)が異なる制振構面と非制振構面で,構面が切り替わる位置での不連続な応力の伝達機構を明らかにし,梁,柱及び柱梁接合部での局所損傷を明らかにする。そして,設計時の目標層間変形角まで局所損傷を防ぐための制振構面と非制振構面の梁及び柱の要求性能を明らかにする。
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