研究課題/領域番号 |
19H02282
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西村 康志郎 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (00343161)
|
研究分担者 |
岸田 慎司 芝浦工業大学, 建築学部, 教授 (10322348)
河野 進 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (30283493)
小原 拓 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (50845451)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 鉄筋コンクリート有孔梁 / 鉄筋のカットオフ / 重ね継手 / 光ファイバ / 開口補強筋 |
研究実績の概要 |
開口を有する鉄筋コンクリート梁において、鉄筋のカットオフや重ね継手が及ぼす影響を把握するために、梁試験体の静的繰返し逆対称加力実験を行った。実験パラメータは、開孔の有無と鉄筋のカットオフ・重ね継手の有無とした。標準試験体は開口(直径165mm)・2段目鉄筋のカットオフ・1段目鉄筋の重ね継手を有している。開口の無い試験体を1体、鉄筋のカットオフ・重ね継手のない試験体を1体、合計3体の試験体を準備した。その結果、開口周辺が鉄筋で十分に補強されていれば、(1)使用限界におけるひび割れ幅、損傷限界における残留ひび割れ幅に与える鉄筋のカットオフの影響は小さい、(2)鉄筋のカットオフは、最大耐力には影響を与えないが、最大耐力までの変形性上に若干の影響を与える、(3)最大耐力後は、開口周辺の補強筋がせん断に抵抗し、変形性能を上昇させることがある、などが明らかになった。 開口補強筋の効果を確認するため、梁端部に開孔を設け、開口上下補強筋、開口際補強筋、水平補強筋を配筋した試験体を用いた実験を行った。開口上下補強筋を配筋することにより、開孔部上側接線方向のひび割れを抑え、靭性が大きくなることを確認できた。 実験結果を分析するためにFEMによる解析を行った。コンクリート、鉄筋、鉄筋とコンクリート間の付着のモデル化を行い、最大耐力まで、実験での荷重―変形関係や鉄筋のひずみを再現できることを確認した。せん断スパンを短くしたモデル、主筋の段数を増やしたモデルなどを作成し、モデルの有効性を確認した。 損傷評価を目的に、光ファイバセンサを用いてコンクリート壁試験体内に配置した鋼材の軸ひずみを計測した。その結果、部材角1.0%時まで鋼材軸ひずみを光ファイバにより計測でき、降伏箇所を明確に示すことができた。また,光ファイバで計測した軸ひずみは従来のひずみゲージによる計測結果とほぼ同値であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄筋のカットオフによる付着抵抗の低下、鉄筋の継手の位置、貫通孔の大きさ・配置が与える相互的な影響を明らかにするという最終的な目標に向け、今年度はパラメータを大きく振り、その概要を把握できたことが大きい。予定通りに実験を遂行し、有用なデータが得られた。開口補強筋の効果についても確認できた。 生じ得る破壊メカニズムを明らかにするという目的に向け、配筋やせん断スパンのパラメータに対応可能なFE解析モデルを構築した。実験結果と比較し、荷重―変形関係や鉄筋のひずみを再現できることを確認した。 部材損傷のモニタリング法を開発するという目的に向け、光ファイバを用いた計測を行い、損傷限界程度の変形までの有効性を確認した。 以上のように、複合的破壊に対する耐力評価のため簡易なモデルの考案、FEモデルによる詳細な検討を組み合わせた設計法を提案に向けて、概ね順調に進捗していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
鉄筋コンクリート梁における開口と補強筋の影響を把握するために、引き続き梁試験体の加力実験を行う。基礎梁のように曲げ降伏しない梁では、梁端部にも開口を設けるニーズがある。梁端部のみに開口を設けた梁の実験は行われている。通常は、梁端部から材軸方向へ梁せい程度の範囲を避けて開口が設けられるが、これに加えて、梁端部にも開口を設けた梁試験体の実験を行い、開口の影響と開口補強筋の効果を把握する。 1年目の実験で、梁の損傷が進行すると、計算上十分な強度を有する重ね継手でも劣化することが確認された。重ね継手の強度を把握するために、要素実験を行う。断面は400×350mmで、異形鉄筋D19の引張鉄筋を5本配置し、全ての鉄筋に重ね継手を設ける。パラメータは、横補強筋比、横補強筋の配置、引張鉄筋の位置(上端か下端か)、コンクリート強度とする。実験結果より、局所的な継手破壊の有無、継手強度などを把握する。 曲げ降伏する梁では引張鉄筋が降伏するが、鉄筋の降伏が付着強度に与える影響を把握するために、コンクリートに埋め込まれた鉄筋の引抜実験を行う。パラメータは、せん断補強筋比、コンクリート強度、付着長さ、鉄筋の段数とする。引張鉄筋を降伏させなかった過去の実験結果と比較し、引張鉄筋の降伏による強度低下などを把握する。 FEMによる解析を行い、梁内部の応力伝達を把握する。先ずは実験結果を再現し、その後、鉄筋の配置などパラメータにして解析を行う。また、FEモデルでのひずみと実験でのひび割れ状況を比較し、解析上の損傷評価について検討する。 これらの構造実験と数値解析により複合的な破壊メカニズムを検証する。簡易な評価モデルや有限要素モデルでの設計クライテリアを提案し、鉄筋コンクリート有孔梁の複合的破壊を考慮した設計法を開発する。地震後の継続使用を目的に、汎用性の高い設計法とモニタリング法を検討する。
|