研究課題/領域番号 |
19H02287
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上林 宏敏 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (30300312)
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研究分担者 |
長 郁夫 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (10328560)
新井 洋 国立研究開発法人建築研究所, 構造研究グループ, 上席研究員 (40302947)
大堀 道広 福井大学, 附属国際原子力工学研究所, 准教授 (50419272)
吉田 邦一 一般財団法人地域地盤環境研究所, その他部局等, その他 (50425732)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 微動 / 位相速度 / 全波動場 / 実効位相速度 / 傾斜基盤面 / 模擬微動波形 / ベンチマークテスト / 地下構造推定 |
研究実績の概要 |
大阪平野の3次元地下構造モデルを用いて求めた模擬微動波形の位相速度評価(地盤不整形度合による水平成層モデルに基づく位相速度との差異)には,予め単純な地下構造モデルを用いた位相速度のふるまい及び,位相速度解析上の手法や設定パラメーター等の違いによる影響の評価が必要となる.そこで,層厚が異なる2層の水平成層部を傾斜基盤面により接続したモデルを構築し,傾斜角(5,10,90度)の違いによる位相速度をSPAC法とFK法により調べた. 結果として,レイリー波位相速度との手法及び設定パラメーターによる違いやばらつきは小さかった.ただし,傾斜角90°の場合の段差領域では不整形地盤の影響が現れ,レイリー波(基盤面深度を変化させた水平成層モデル)との対応は悪かった.一方,既往の知見で示唆されている傾斜角5°の基準よりも大きい傾斜角10°においてもレイリー波理論での適用性が示された.これらの結果を,第17回世界地震工学会議(2021年9月へ延期開催)のプロシーディングスとして提出し,また日本地震工学会論文集への投稿を準備中である. 上記の単純な不整形地盤モデルの水平成層部において,レイリー波理論では説明ができない基盤層のS波速度を超えるピーク状の位相速度が観察された.この事象を理論的に調べた結果,表層内をS波共振周波数で多重反射する実体SV波が原因であることが分かった.また,どのような状況下において,この事象が顕著に現れるかをパラメータースタディによって明らかにした.さらに,全てのモードを含むレイリー波場と実体SV波場が混在した全波動場における位相速度(実効位相速度と名付けた)の評価手法を考案した.これらの結果を,専門誌(Exploration Geophysics)において発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大阪平野の3次元地下構造モデルを用いた模擬微動波形による位相速度評価を実施する前の予備検討として,2層からなる単純な傾斜基盤面を持つ地下構造モデルによる位相速度を推定し,レイリー波理論位相速度との比較検討を行った.その結果,既往の高次モードを含むレイリー波理論では説明ができない顕著なピーク状の位相速度が観察された.この原因を調べるため,研究分担者との議論や検討に留まらず,投稿論文に対するピアレビューによる意見を踏まえて,様々な観点(更なる既往の文献調査や数値実験による検証など)による検討を行った.その結果,当初予定していた進捗に比べて,やや遅れが生じた. しかしながら,上記のような位相速度に対する新たな観点からの基礎的な検討によって,表面波場に囚われずに,実体波を含む全波動場に対する位相速度の評価手法を考案することができた.また,3成分の模擬微動波形を研究分担者とも共有したことにより,水平動の回転成分からSH(ラブ)波による位相速度の評価法が考案され,さらに水平動発散成分からP(レイリー)波による位相速度の評価法も発案されつつある.
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今後の研究の推進方策 |
大阪堆積盆地モデルを対象に長時間の微動のシミュレーションを実施し,既述の単純な地下構造モデルを用いて得られた知見を踏まえ,表面波場のみならず全波動場からの位相速度の評価を行う.また,位相速度に加えて,H/Vスペクトル(観測量)についても求め,各地点直下速度構造に基づく水平成層構造モデルから求めた観測量との差異を求める.また,模擬波(全波動場)の空間微分量から特定の波動種別(レイリー波,ラブ波,実体波)を抽出し,それらの位相速度のふるまいについても検討する。 位相速度の推定手法であるSPAC法について,理論に加えて観測の面からも全波動場を考慮した位相速度の同定精度を評価する.SPAC法とFK法間による位相速度の違い及び同定精度と基盤面不整形度合との関係についても調べる。 実観測データ取得のための,適切な微動アレイ観測点の選定や過去に行った観測データを用いた位相速度の評価を行う.
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