研究課題/領域番号 |
19H02288
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
桑原 進 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10243172)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高力ボルト / 摩擦接合部 / スロット孔 / 拡大孔 / すべり係数 / FEM |
研究実績の概要 |
高力ボルト摩擦接合は溶接接合と比較すると,経験の浅い技能者でも施工環境・条件によらず安定した高い接合部性能を実現しやすい施工方法である.近年の技能者の不足・高齢化を鑑みれば,鋼構造接合部における高力ボルト摩擦接合の重要性は今後も大きく高まる. 近年の構造物の巨大化に伴い,鋼構造物の不可避な製作誤差・施工誤差を施工現場で解消するため,高力ボルト摩擦接合部の拡大孔,スロット孔の潜在的な需要が高まっている.また,スロット孔を用いる高力ボルト摩擦接合のすべり耐力に関する海外の基規準を覆す既往研究が報告されており,早急な検討と新たな設計法の提案が必要である.本研究では,拡大孔・スロット孔を用いた高力ボルト摩擦接合部を一般的に実用可能にすることが最終的な目標である.同工法は国内だけに限らず,海外展開時,特に鋼構造部材の製造技術,溶接技能が未熟な鋼構造後進国への展開にあたり大きな利点となる. 2019年度は拡大孔・スロット孔を用いた高力ボルト摩擦接合部のすべり試験を実施し,すべり性状に及ぼす以下の変数の影響を明らかにした. 実験変数は拡大孔の径,スロット孔の径,スロット孔の長さ,スロット孔と作用応力の方向,スロット孔とボルト挿入位置の関係,縁端距離である.特にスロット孔が作用応力と平行方向にあるときよりも,直交方向に位置する場合ですべり係数が小さくなること,すべり耐力と母材の降伏応力の比がすべり係数に大きな影響を及ぼすことを確認した.リラクセーション試験では,今回の試験範囲において影響はみられていない.前述の高力ボルト摩擦接合部すべり実験をFEM解析にて再現した結果,両者に良い対応が見られた.本解析により,締付け時の材間圧縮力分布,すべり時のボルト孔周りの応力状態,変形状態を確認し,実験変数の影響を考察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は,100体を超えるすべり試験を実施し,スロット孔,拡大孔を有する高力ボルト摩擦接合部の基本的な性状を確認することができた.また,同実験をFEM解析で追跡した結果も良い対応を示していることから,実験で未検討であったパラメータによる影響をFEM解析により検討できる目処がたった.また,当初予定にはなかった高力ボルト締付時の導入ボルト張力に及ぼすスロット孔・拡大孔の影響に関するFEM解析による検討が,概ね終了した.2020年度にはこの解析の検証を行うための実験が予定されている.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の計画は以下の通り.1.スロット孔・拡大孔による高力ボルト摩擦接合部のリラクセーション試験:スロット孔・拡大孔を使用した接合部のリラクセーション試験を継続して実施.2.FEMによる追加解析:2019年度のすべり実験と解析で未検討であったパラメータに対するFEM追加解析を実施.ボルト径, ボルト強度,添板厚(特に薄い場合)を従来の変数に加え,それらの影響を検討する.3.すべり試験によるFEM解析の検証:2.のFEM解析によりすべり耐力に大きな影響を及ぼす変数を選定し,すべり試験による検証を行う.4.スロット孔接合部の最大耐力:スロット孔,特に応力方向に対し直交方向のスロット孔に対する最大耐力を引張試験にて確認する.5.OS法による締付け施工実験による解析結果の検証:2019年度 のFEM解析結果の検証を行うため,スロット孔を使用した接合部のOS法による締付けを実施する.6.スロット孔・拡大孔を使用した梁継手の 4点曲げ実験:スロット孔・拡大孔を使用した梁継手の4点曲げ試験を行い,その力学性状を把握する.7.梁継手の履歴モデルの作成:スロット孔・拡大孔のすべりに伴う回転量の増大を反映したモデルを作成.骨組の挙動解析を行うための準備を行う. なお,2020年度は新型コロナ感染拡大防止の観点から,大学での実験実施の見通しが現時点では立っていない.解析はリモートアクセスにより実施が可能なため,こちらを先行して行う予定.
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