研究課題/領域番号 |
19H02289
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
孫 玉平 神戸大学, 工学研究科, 教授 (00243915)
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研究分担者 |
藤永 隆 神戸大学, 都市安全研究センター, 准教授 (10304130)
竹内 崇 神戸大学, 工学研究科, 助教 (80624395)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ドリフト硬化性 / プレキャスト壁 / 鉄筋コンクリート / 層間変形角 / 残留層間変形角 |
研究実績の概要 |
本研究は、南海トラフ地震のような巨大地震を受けた後の都市の機能回復力、および経済活動と日常生活の迅速な復旧の観点から、降伏応力が1275MPa級のウルボン筋束を壁柱(柱型のない耐力壁)断面の両端に内蔵することによって、ドリフト硬化性(耐力が変形に伴い増加していく特性)と高い修復性(残留変形が僅か)に加え、高い生産性を有する新しい耐力壁を開発・提案することを目的とする。研究の初年度にあたる2019年度では、計画通りに、壁柱のせん断スパン比、壁柱に加える軸力の大きさ(軸力比)、ウルボン筋の配置形式(平行型と山形)、および壁柱の打ち方(一体打ちとプレキャスト)を実験変数に取り、計8体の試験体を作成し、一定軸力下における繰り返し載荷実験を行った。また、層間変形角3.0%以上の大変形域ではウルボン筋束の局部座屈が壁柱の変形能力を支配するという既往の実験結果を踏まえ、本提案壁柱の性能評価モデルに欠かせない、ウルボン筋の局部座屈性状に関する基礎データを取得するために、壁柱断面の圧縮域を模擬した試験体(6体)について中心圧縮試験を行った。それらの実験の結果より、以下のような知見を得った。 1)本提案PCaRC壁柱は、層間変形角が2.5%まで一体打ちの壁柱と同等なドリフト硬化性と修復性を有する。 2)壁板に均等配置する縦筋を上下梁のなかへ定着させなければ、計算上せん断破壊が先行する、せん断スパン比1.5のう壁柱はせん断破壊を回避でき、層間変形角3.5%までのドリフト硬化性を示せる。 3)ウルボン筋束のしっかりした端部定着はPCaRC壁柱が層間変形角2.5%以上のドリフト硬化性を有する必要条件である。 4)ウルボン筋の降伏時ひずみが大きいことから、それを拘束するフープ筋の間隔がウルボン筋直径の4倍と小さい場合でも、ウルボン筋束は弾性領域で局部座屈する傾向にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初計画は、研究の初年度では、PCaRC壁柱の高いドリフト硬化性と修復性を実証することを主たる目的として、1)一体打ち壁柱とPCaRC壁柱のドリフト硬化性と修復性を比較検討することと、2)壁柱のせん断スパン比(1.5~2.5)、軸力比(0.07と0.15)、およびウルボン筋面積比または配置形式のPCaRC壁柱の性能への影響に関するデータを取得することを具体的な検討事項とした。 研究実績の概要にて述べたように、2019年度の実験研究では、1)層間変形角2.5%まで本提案PCaRC壁柱は一体打ち壁柱とほぼ同等なドリフト硬化性と修復性を有すること、2)層間変形角2.5%を超える大変形域までのドリフト硬化性を本提案PCaRC壁柱に確保させるには、壁柱断面の両側に配置するウルボン筋束の端部定着部の詳細に強く依存することを明らかにした。つまり、計画通りに、本提案PCaRC壁柱のドリフト硬化性の実証と残る問題点の究明ができたことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した次第である。 さらに、本提案壁柱の性能評価手法の確立に欠かせない、ウルボン筋の局部座屈性状に関する基礎データを取得し、ウルボン筋の降伏時ひずみが大きいことから、それを拘束するフープ筋の間隔がウルボン筋直径の4倍と小さい場合でも、ウルボン筋束は弾性領域で局部座屈する傾向にあり、コアコンクリートの存在は逆にウルボン筋の早期座屈を引き起こす恐れがあることを実験的に明らかにした。この知見を2020年度に構築しようとする提案壁柱の性能評価方法に組み入れて、提案手法をより適用範囲の広いものに仕上げることにつながる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の初年度での「研究実績の概要」と「現在までの進捗状況」の項で述べたように、本研究は当初計画の通りに進んでいることから、2年度にあたる2020年度では、当初の計画通りに、以下の事項を具体的な研究対象とする。 1)ウルボン筋の端部定着長さおよび定着方式を実験変数に取り、計8体の試験体について一定軸力下における繰り返し載荷実験を行い、端部定着詳細が提案壁柱のドリフト硬化性等性能への影響に関する実験データを取得する。なお、8体の試験体はすべてプレキャスト壁柱とする。 2)提案するPCaRC壁柱の繰り返し履歴性能の解析手法を開発する。研究代表者が率いる研究チームですでに開発された、主筋の付着すべりの影響を考慮できる一般RC部材の履歴解析手法を、ウルボン筋を用いたRC造壁または壁柱へ拡充することによって解析手法を構築・提案する。さらに、解析結果と2019年度および2020年度で得られた実験成果と比較することによって、提案手法の精度の検証を行い、必要に応じてキャリブレーションを行い、提案解析手法の信頼性と正確性を向上させる。 3)提案する解析手法による数値シミュレーションおよび実験結果に基づき、本提案壁柱の能力曲線と修復性曲線の構築・提案を開始する。
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