研究課題/領域番号 |
19H02297
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
金田一 清香 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 准教授 (00396300)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エナジーポートフォリオ管理 / ヒートポンプ / 未利用熱 / 地中熱 / 貯留水 |
研究実績の概要 |
空調用ヒートポンプの熱源として現状最も多く用いられる大気中の熱(空気熱と呼ぶ)に比べ、地中熱や河川・海水・湖沼水等の水が保有する熱(未利用熱と呼ぶ)の活用は進んでいない。特に温暖地の冷房過多条件での未利用熱活用を対象とした事例は少なく、またほとんどが未利用熱源の容量選定や年間性能の予測等、主に設計・計画段階でのケーススタディを行うものであり、運用段階において実際の負荷状況を踏まえ、未利用熱源を持続的かつ高効率に活用するための手法は未だ確立されていない。一般に、実運用時の冷暖房負荷が設計値と乖離することはよく見られる事象だが、従来の空気熱の単独方式では能力不足とならない限り、運用上の問題はほとんどなかった。しかし、未利用熱源を併用する場合、負荷の大小に加え、インバータの容量制御や台数制御の方法等、様々な要因によって生じる設計との誤差が熱源に蓄積し、例えば20年後には熱源温度の変化やシステム性能の低下を引き起こし、恒常的に使えなくなる危険がある。そこで本研究では、温暖地での未利用熱の積極的な活用に向け、空気熱との共存の中で実効性の高い熱源システムとして機能するよう、設計から運用段階まで一貫した評価手法を確立することを目的とし、未利用熱と空気熱とのハイブリッド熱源による空調用ヒートポンプシステムの設計および持続的な運用を可能にする「エナジーポートフォリオ管理」を開発する。今年度は、ハイブリッド熱源ヒートポンプシステムを模擬した実験システムにより、外気温や負荷率が異なる秋季~冬季についてデータ収集を行った。また、地中熱-空気熱のハイブリッド熱源システムについて、エナジーポートフォリオ管理の実践を試みた。負荷条件や熱源構成比率、運用条件を変えた計100ケース強のポートフォリオを作成し、年間エネルギー効率と熱源サステナブル指数を指標として10年間の運用改善効果を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・ハイブリッド熱源の制御方法に関する実験的検討:水熱源ヒートポンプチラー (WSHP)と空冷ヒートポンプチラー (ASHP)(それぞれインバータ搭載、機器容量6 kW程度)からなる中央式熱源システムを模擬した実験システムを用い、外気温や負荷率が異なる秋季~冬季についてデータ収集を行った。竣工時期の関係で夏季データの取得には至らなかったため、次年度の課題とする。 ・ハイブリッド熱源ヒートポンプシステム統合システムシミュレーションの構築:貯留水部分のモデル検証や汎用性の確保が課題となったため、今年度は地中熱と空気熱のハイブリッド熱源システムを対象として検討を進めることとした。 ・エナジーポートフォリオ管理の実践:上述のとおり、今年度は空気熱-地中熱ハイブリッド熱源システムについて、エナジーポートフォリオ管理の実践を試みた。広島市の気象条件に対し、延床面積2000 m2の事務所用途建物の主要居室にハイブリッド熱源ヒートポンプシステムを適用することを想定した。熱負荷条件は外気負荷のみの場合、外気負荷に外皮負荷を加えた場合、さらに全ての室負荷を加えた場合を考え、それぞれWSHPとASHPの機器容量の比率を11条件変更してポートフォリオを作成した。運用条件では、WSHPとASHPの運転順位、地中熱の熱源水ポンプの制御方法、冷却塔による放熱併用の有無により、年間エネルギー効率(AEE)や熱源温度の変化度を示す熱源サステナブル指数(HSI)は強く影響されることがわかった。計100ケース強のポートフォリオを作成し、10年間の運用改善効果を提示することができたが、貯留水-空気熱の組み合わせ、および地中熱との比較については次年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
・ハイブリッド熱源の制御方法に関する実験的検討:2019年度(繰越が発生したため実際の竣工は2020年度)に構築した実験システムを用い、引き続き、未取得となっている夏季データおよび異なる負荷条件でのデータ蓄積を行う。 ・ハイブリッド熱源ヒートポンプシステム統合システムシミュレーションの構築:地中熱―空気熱ハイブリッド熱源システムについては今年度までで概ねシミュレーションを完了したが、次年度は課題として残された貯留水-空気熱システムについて拡充に努める。貯留水の場合は地中熱と比べ、夏季の冷熱供給に優位な結果となることが予想されることから、それに応じて冷熱の比率を増加させた熱負荷条件を新たに加える。その他は基本的には地中熱の場合と同様のポートフォリオを考え、年間エネルギー効率および熱源サステナブル指数を指標として比較・検証を行う。 ・エナジーポートフォリオ管理の実践:上述のシミュレーション結果を、縦軸に目的指標である年間エネルギー効率および熱源サステナブル指数、横軸に経年変化をとるポジショニングマップ上に付置し、各ポートフォリオの性能特性をASHPのみの場合と比較する。このとき、熱源温度レベルの長期変動がないことが条件となる。全ポートフォリオの結果を用い、多変量解析により各パラメータが年間エネルギー効率に及ぼす影響度を示し、汎用的な未利用熱の導入指針としてまとめる。さらに、運用改善のケーススタディとして、代表ポートフォリオを選定し、運用後の負荷が設計より大または小であると仮定して、ポートフォリオの見直しの有無による年間エネルギー効率や熱源温度レベルへの影響を定量的に検証する。
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