空調用ヒートポンプの熱源として現状最も多く用いられる大気中の熱(空気熱と呼ぶ)に比べ、地中熱や河川・海水・湖沼水等の水が保有する熱(未利用熱と呼ぶ)の活用は進んでいない。特に温暖地の冷房過多条件での未利用熱活用を対象とした事例は少なく、またほとんどが未利用熱源の容量選定や年間性能の予測等、主に設計・計画段階でのケーススタディを行うものであり、運用段階において実際の負荷状況を踏まえ、未利用熱源を持続的かつ高効率に活用するための手法は未だ確立されていない。一般に、実運用時の冷暖房負荷が設計値と乖離することはよく見られる事象だが、従来の空気熱の単独方式では能力不足とならない限り、運用上の問題はほとんどなかった。しかし、未利用熱を併用する場合、負荷の大小に加え、インバータの容量制御や台数制御の方法等、様々な要因によって生じる設計との誤差が熱源に蓄積し、例えば20年後には熱源温度の変化やシステム性能の低下を引き起こし、恒常的に使えなくなる危険がある。そこで本研究では、温暖地での未利用熱の積極的な活用に向け、空気熱との共存の中で実効性の高い熱源システムとして機能するよう、設計から運用段階まで一貫した評価手法を確立することを目的とし、未利用熱と空気熱とのハイブリッド熱源による空調用ヒートポンプシステムの設計および持続的な運用を可能にする「エナジーポートフォリオ管理」を開発してきた。今年度は、ハイブリッド熱源ヒートポンプシステムを模擬した実験システムにより、搬送動力が懸念される熱源水ポンプについて適切な変流量制御の条件を明らかにした。また、広島大学東広島キャンパスを対象に、特に未利用熱の熱源温度や水搬送の特性を踏まえたシステム設計を検討し、冷房期は貯留水、暖房期は地中熱利用との併用が適していることを示し、通常の空冷方式に比べて概ね年間30%程度の省エネルギーが可能であることを明らかにした。
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