研究課題/領域番号 |
19H02298
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
大鶴 徹 大分大学, 理工学部, 客員教授 (30152193)
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研究分担者 |
岡本 則子 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (00452912)
富来 礼次 大分大学, 理工学部, 准教授 (20420648)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アンサンブル平均 / 建築音響設計 / 音圧ー粒子速度センサ / 校正法 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
理論解析では、アンサンブル平均を利用する吸音測定法(EA法)の測定メカニズムについて、確率・統計的視点から数理モデルの再構築を開始した。まず、単一音源に対するモデルをもとに、試料上の受音点へ到来する音波の直接音との経路長差の分布特性、測定される吸音特性(インピーダンスと吸音率)を求め、アンサンブル平均を施すことで安定した吸音特性が得られることを確認した。 並行して、3次元PUセンサの校正用音響管のプロトタイプを作製した。当該音響管内で校正した3次元PUセンサを用いるEA法により、グラスウールの吸音特性を測定した結果、x軸とy軸の2方向に関しては、ほぼ1次元PUセンサによる吸音特性と近似の値が得られること、z軸方向については500 Hzを越える周波数領域で1次元センサの吸音率から乖離する傾向を確認した。 EA法について、不均一性が高い多孔質粘土レンガを対象に含め吸音特性の測定を開始した。この材は、タイ国ランパン・ラジャバート大学の協力のもと、形状等が本研究の実験に適するよう作製したものである。焼成温度等を調整することで材料特性を変化可能な反面、密度や空隙の分布に不均一性が避け難い。不均一性材の例として、グラスウールなどに加え検討の対象とした。 数値解析では、曲面を有する室や吸音面が偏在する矩形室内音場の有限要素解析を行いインパルス応答やRASTIを求め、複雑な境界条件を有する建築音場解析と音場改善のための基礎資料を得た。 これらの成果は、日本建築学会九州支部研究発表会、日本音響学会研究発表会、同・九州支部学生のための研究発表会、International Congress on Acoustics(アーヘン)で論文発表するとともに、Applied Acoustics誌、Construction and Building Materials誌で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論解析と数値解析については、「研究実績の概要」に記したとおり、概ね研究計画に沿った進捗状況である。実験については、新規な3次元PUセンサの利用開始に加え、不均一性の高い建築材料に関わる検討に着手したため、当初計画とやや異なる展開となってはいるものの、本研究の目的に掲げた「アンサンブル平均概念」を「建築音響設計全体へと展開」していく上で、不均一性の高い建築材料をスコープに取り込むことは重要、かつ、有意義、との判断に基づいたものである。なお試料の作製について、タイ国Lampang Rajabhat University ・Department of Metrology and Quality Systemの協力で実現しており、さらなる共同研究への展開が期待できる。3次元PUセンサのz軸方向の校正に関し、500 Hzを越える周波数域で課題を残しており、令和2年度に改良を行う予定である。 得られた成果は、日本建築学会や日本音響学会の各研究発表会で口頭発表を行うとともに2編の国際学術誌(Applied Acoustics、Construction and Building Materials)や International Congress on Acoustics(国際音響学会)で公表している。当該分野で権威ある学会・学術誌であることを踏まえ、進捗状況は「概ね良好」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
アンサンブル平均概念の理論的展開と音場の数値解析、ならびに、アンサンブル平均を用いる吸音測定法(EA法)による実験を軸に研究を推進していく。 まず、アンサンブル平均概念の建築音響分野での理論展開について、昨年度実施した高速多重極展開境界要素法による理論解析結果をもとに、測定法としての有効性を検証していく。なお境界要素法については、現有の市販ソフトウエア(サイバネット社、WAON)を活用する。あわせて、代表者等が既往の研究で開発した有限要素法による音場解析へ境界条件等の確率分布を組み込むためのモデル構築を試みる。続いて、中規模計算用サーバーを導入し、大分大学構内実物住宅模型、大分大学残響室等を対象に、音場解析を実施する。なお、実測の可能性に応じ、適宜、解析対象の拡充を試みる。解析で変化させるパラメータは、温度と吸音率を基本として想定し、適宜、刻み幅を変更する。対象周波数は100 Hz~2000 Hzを基本に、より高域への拡張を試みる。 実験はCovid-19による危険を十分回避した範囲に限り実施する。音場解析の対象とした室内を中心に、EA法による建築材料の吸音特性測定を実施し、実用的測定法としての検証とデータベース化を行う。なお、用いるセンサは1次元PUセンサに合わせ、2本のマイクロフォンを用いるEApp法を併用することで、より実用に適した測定法の確立を目指す。また3軸PUセンサに関し、昨年度、校正用音響管のプロトタイプを試作しており、今年度はz軸方向の校正法の改良とともに、建築音響分野での有効性等について考究する。一般的な建築材料では避けられない、同一材中や材ごとの不均一性の処理方法について、昨年度からの検討を継続する。 以上で得られた成果は、日本建築学会、日本音響学会、インターノイズなど、内外の権威ある学会で公表していくとともに、ホームページでの公開を試みる。
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