研究課題/領域番号 |
19H02324
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
増田 達男 金沢工業大学, 建築学部, 教授 (70125095)
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研究分担者 |
岩見 達也 国立研究開発法人建築研究所, 住宅・都市研究グループ, 上席研究員 (20370744)
今井 健太郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地震津波海域観測研究開発センター, 研究員 (20554497)
三戸部 佑太 東北学院大学, 工学部, 准教授 (60700135)
林 吉彦 国立研究開発法人建築研究所, 防火研究グループ, グループ長 (70212157)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 津波火災 / 南海トラフ地震 / 瓦礫量 / 延焼予測 / 航空レーザ測量 / シミュレーション / GIS |
研究実績の概要 |
津波火災の主因は、木造家屋の倒壊により発生した木質瓦礫である。その堆積分布を求めることで、津波火災の予測が可能となる。堆積分布に関する主要な影響因子は、発生瓦礫量、津波の浸水深、津波遡上距離、地形勾配、地盤の摩擦抵抗、浸水範囲の地形特性値である。南海トラフ地震津波の対象地域である下田市と尾鷲市において、影響因子のデータセットをGISで作成し、予測モデルによって木質瓦礫の堆積分布を予測した。結果は、遡上境界付近や山裾に集中して堆積する一方、浸水深7m以上の範囲で瓦礫は堆積せず、東日本大震災の堆積性状によく符合した。 この予測モデルは、東日本大震災における限られた被災地域の堆積データを用いたため、適用地形に限界がある。適用性を拡げるため、東日本大震災全域の堆積データを求める必要がある。堆積量は、高精度の航空レーザー測量データから取得するが、津波瓦礫の判別は航空写真で行う。ただし、航空写真は天候等に左右されて画質が一様でないため、パラメータ調整を必要とする従来の判別手法を、広域で使用することは難しい。そこでクラスタリング手法を応用した画像分割法の導入および画像正規化により、パラメータ調整を要しない瓦礫判別法を新たに開発した。 次に、瓦礫火災の延焼を予測するためにシミュレーションを用いるが、仮モデルを実装した状態である。これに、実態を反映した火炎高さ、発熱速度、延焼動態を組み込む必要があるため、東日本大震災の画像情報を広く収集した。一方、この画像情報からは、未だに不明点の多い「津波火災の発生メカニズムの解明」に関わる知見を導くことも期待できる。 新たに、歴史的な津波火災についても、史料に視点を当てた。安政地震の津波の際に、清水市と田辺市では、浸水深が1~2mであったにもかかわらず、燃えた材木が市街地に拡散して広域の火災に発展したことを明らかにした。津波火災の性状を示す重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標1は、木質瓦礫の堆積予測である。これについては、下田市と尾鷲市においてデータセットを作成し、予測モデルに基づいて木質瓦礫の堆積分布を予測した。さらに、予測モデルの適用地域性を拡げるために、東日本大震災全域の堆積データを求める必要がある。航空写真から津波瓦礫を判別する従来の調整手法は非効率であるため、調整を要しない新たな判別法を開発した。これによる全域の堆積データ取得が課題として残っている。 目標2は、瓦礫火災の延焼予測である。これには、瓦礫火災シミュレーションを用いるが、実態を反映するため、東日本大震災の画像情報を広く収集した。収集情報に基づいたシミュレーションの調整が、今後の課題として残っている。なお、これらの画像情報からは、未だに不明な点が多い「津波火災の発生メカニズムの解明」に関わる知見を導くことも期待できる。 新たに、歴史的な安政地震の津波について、史料に視点を当てている。その結果、「清水市と田辺市では、浸水深が1~2mであったにもかかわらず、燃えた材木が市街地に拡散して広域の火災に拡大した。」という重要な事実を明らかにした。 以上のように、課題を残す一方で、今後の研究を着実に進めるための準備体制を、充分に整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
方策1は、新たに開発した航空写真判別法により、効率的に東日本大震災全域の堆積データを求めることである。このデータに基づいて瓦礫堆積の予測モデルを改良することにより、南海トラフ地震津波の対象地域について、その適用範囲を大きく拡大することができる。 方策2は、収集した東日本大震災の画像情報に基づいて、実態を反映した瓦礫火災の延焼予測シミュレーションを構築することである。これにより、南海トラフ地震津波の対象地域において、瓦礫火災の延焼を予測することが可能になる。 方策3は、これらの画像情報から、津波火災の発生メカニズムに関わる知見を導くことである。これにより、未だに不明な点が多い「津波火災の発生メカニズムの解明」に、寄与することが期待される。
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