研究課題/領域番号 |
19H02331
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 朝雄 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (70380714)
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研究分担者 |
土屋 潤 九州大学, 芸術工学研究院, 講師 (40448410)
谷 正和 九州大学, 芸術工学研究院, 教授 (60281549)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バナキュラー建築 / 鉄骨 / 編年 / I形鋼 / 英領 |
研究実績の概要 |
この研究の目的はアジアの旧英領植民地の英領期(19世紀後半から20世紀前半)の住居や店舗などのバナキュラー建築を、使用されている鉄骨部材を考古学的手法により編年しその建設年代を特定する方法論を開発することである。2020年度は、構成元素の変化による編年法の確立に取り組んだ。 長崎の旧・英国領事館で使用されていた鉄骨1本、および、インドで購入した中古の鉄骨10本の合計11本、製造会社別に見ると、Dorman Long社7本、Cargo Fleet社1本、Frodingham社3本、について、成分分析、金属組織の観察を行った。Cargo Fleet社の鉄骨は、Dorman Long社、Frodingham社と比較して、ニッケルとクロムの含有量が高い。長崎の旧・英国領事館で使用されていた鉄骨は、炭素量が低く、リンや窒素の含有量が他のDorman Long社の鉄骨より高い傾向がみられ、その金属組織は、一般的な鋼材で観察されるフェライト・パーライト組織で、長崎の旧・英国領事館で使用されていた鉄骨については、主にフェライト組織で、介在物が比較的多く観察され、錬鉄と推定された。Dorman Long社は造船用錬鉄の製造より発展した企業であるが、1880 年代より鋼の生産を開始しており、1895 年版Dorman Long社のハンドブックでは「シーメンス・マルチン酸性平炉法による」と記載があるが、長崎の旧・英国領事館の鋼材が平炉鋼ではなく錬鉄であれば、1895 年以前の生産と推定される。 それ以外のDorman Long社製の鉄骨、Cargo Fleet社の鉄骨、および、Frodingham社製の鉄骨は、窒素の含有量が低いため、転炉ではなく平炉で生産されたものであろう。よって、平炉による鋼がイギリスで支配的になった20世紀初頭以降に生産されたものと推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では2020年度は、構成元素の変化による編年法の確立と鉄骨編年の妥当性の検証に取り組む予定であった。新型コロナウイルスの感染拡大のため、調査対象地に赴くことができず、十分な量の鉄骨を入手することができなかった。また、暫定的鉄骨編年方法についての妥当性の検証も、現地のバナキュラー建築で調査できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も、現地での実地調査は難しそうなので、現地の研究協力者のサポートを受けながら、遠隔での鉄骨編年の妥当性の検証と鉄骨編年の適用可能性の評価を試みる。 暫定的鉄骨編年方法について、バナキュラー建築が数多く建設された、コルカタやチッタゴンにおいて、建築年代が分かっている建築の部材を用いて、部材の形状的特徴と建築物の建築年代を調査し、暫定的編年との整合性を分析することで、その妥当性の検証を行う。その結果を踏まえて、上記の旧英領植民都市において、引き続き現地の研究協力者のサポートのもと、鉄骨編年によって年代決定を試みる。その過程を分析することで、鉄骨編年の適用可能性を評価し、実際の建築史構築にかかる問題点を抽出する。
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