研究課題/領域番号 |
19H02332
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
角 哲 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 准教授 (90455105)
|
研究分担者 |
大場 修 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (20137128)
砂本 文彦 神戸女子大学, 家政学部, 教授 (70299379)
玉田 浩之 大手前大学, メディア・芸術学部, 准教授 (70469112)
村上 しほり 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 客員研究員 (50746104)
長田 城治 郡山女子大学, 家政学部, 講師 (70734458)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 占領 / 接収 / 都市 / 建築 / 戦後 / 連合軍 / GHQ / 日本 |
研究実績の概要 |
令和2(2020)年度の3つの目的のうち,新型コロナ禍の影響で(2)の海外調査は実施できなかった.よって(1)国内調査に重点をおき,(3)研究会を実施して,これまでの調査や議論をもとにした成果公表に重点をおいた. (1)は調査先の利用制限に注意し,北海道の文書館や図書館,山形県立図書館,愛知県や滋賀県の公文書館,京都府立京都学・歴彩館,大阪府公文書館,広島県立文書館など,占領軍の対応窓口となった道府県の渉外関係文書を中心に収集した.その過程で知事引継文書や警察関係文書から接収施設や進駐した部隊,接収後の機能などを理解できた.また,北海道庁や広島県庁に情報公開請求をした占領関係資料が文書館に移管され一般公開に至った.併せて各々が担当する都市の実態把握のため,札幌市公文書館や名古屋市市政資料館,大津市歴史博物館,神戸市が所蔵する図面や写真などから空間の実態を理解できた. (3)は5月と12月にオンラインで開催した.主な議題は成果公表とアメリカ国立公文書館(NARA)で収集した写真のデータベース化である.前者については別途,打合せや議論した.その結果,札幌、名古屋、大阪、神戸の4編を日本建築学会の計画系論文集に,江田島と宮島の2編を技術報告集が掲載された(全て査読付).ほかにも同学会で研究報告を行なった. さらに,11月には分担者の玉田の編集で,水声社から『占領期の都市空間について考える』を刊行した.これは前年度の11月23日に占領期の都市空間に関する記憶と継承をテーマに大手前大学で開催した学際的なシンポジウムの記録で,玉田と村上が主題発表し,大場が討論を進行した. (2)はNARAを予定したが新型コロナ禍で中止されたため,常駐するニチマイへの収集依頼を検討したが期間未定で閉館したため実現しなかった.しかし,調査を妨げる予想外の事案が発生した際の対応を議論する機会となった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していたアメリカ公文書館(NARA)での資料調査ができなかったため,「やや遅れている」と判断した.繰り返しになるが,同館は無期限で閉館したため,NARAに常駐するニチマイへの調査と複写の依頼もできなかった.代表者らがこの調査を計画したのは,米軍を中心とする占領軍が撮影した戦後日本の写真収集によって,これまで知り得ることができなかった空間の実態を理解すること.また,各地に進駐した部隊の動向を建築や都市の視点で把握することであった.写真については,これまでの調査で一定程度は収集済みであるものの,空中写真などの収集が今後の課題である. 一方,これまでの調査で収集,整理した資料をもとに札幌,名古屋,大阪,神戸,江田島,宮島で接収された建築や土地,旧日本軍の基地を転用したキャンプ,その建設技術について明らかにした.このうち,前4者は米軍,後2者は英連邦軍(BCOF)のため,その共通点と相違点を検討する契機となった.さらに,占領軍の進駐先の選定条件,戦災都市の名古屋,大阪,神戸と非戦災都市の札幌の違いや地方性,戦災復興への影響などの一端を把握することができたことも今年度の成果といえる.いずれも日本側の視点を中心に描いた成果ではあるが,論点の整理や今後の研究の進め方を議論する上で有効であったと考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナ禍の終息の見通しが立たないため,海外調査が不可能であることが予想される.一方,これまでの研究により,国内では『知事引継書』など道府県の公文書を,アメリカ公文書館(NARA)では占領期の都市や建築に関する写真など,一定の資料を収集できている.よって,ケース・スタディとしてこれまで調査を進めた地方のキャンプや接収住宅といった居住施設を中心に,公会堂や野球場などの娯楽施設,事務所や病院として用いられた職務施設,訓練などのために接収された土地などを整理したうえで,その様相を比較し,包括的に捉えることを試みる.その方法として,占領軍を米軍に限定し,進駐した軍隊の属性にしたがって分析を進める. 例えば,千歳や三沢,名古屋,福岡は第5空軍が占領したためサンフランシスコ講和条約発効後,占領軍は「駐留軍」と名を変えて接収はつづいた.また,調布や大津では水耕栽培の施設が設けられ,占領軍やその家族に新鮮な野菜を提供した.これまでの調査で仮説となるのは,日本は都道府県に置かれた渉外担当が占領軍の対応にあたったが,各々の部隊がカバーする占領エリアと日本の行政区分は必ずしも重ならないのではないか,ということである.例えば,京都市の南部と大津が一括で統治されているし,NARAでは大阪から神戸の須磨までを一体とした地図を見出しており,統治する上で占領軍が重視したのは地形にもとづく空間的な広がりであるということである. よって,今後は部隊の属性と地形を分析の視角として調査と研究を進めたい.
|