研究課題/領域番号 |
19H02339
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏二郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (10226508)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 航空宇宙工学 / 数値流体力学 / ペネトレータ / 衝突 / 粉体流 / 圧縮性流体 |
研究実績の概要 |
ペネトレータは高速で地表に衝突貫入する槍型探査プローブであり、月・惑星・小天体や、地球上の到達困難な危険地帯の探査で活躍が期待される。本研究では、ペネトレータ周りの砂(レゴリス)の流れを、圧縮されると除荷しても元の体積に膨張回復しない流体(CNE流体)としてモデル化し、シミュレーションする手法を開発する。研究初年度の2019年度の成果は、以下の3点にまとめられる。 1)CNE流体モデルでは、圧縮時の圧力を密度の非線形多項式とすることで、密度とともに圧力の上昇率が増える、すなわち、圧縮とともに砂が硬くなっていく硬化を表現できる。これを計算コードに組み込んで2次元クレータ形成問題を解き、硬化CNE流体モデルは不自然な密度増加を防ぎ、より現実に近い結果を与えることを示した。通常の圧縮性流体による解析とCNE流体による解析を比較し、前者は衝撃波の地下伝播とともに高密度領域が移動、拡散する点で非現実的であるが、後者は衝突点直下に高密度領域が形成されて保持される点で妥当であることを示した。さらに、CNE流体に対してエントロピーを定義し、その非可逆変化を熱力学的に説明した。 2)CNE流体解析コードをペネトレータに固定した運動座標に拡張し、鉛直に貫入する円筒型ペネトレータの運動と砂の挙動を連成解析するコードを開発した。貫入速度に対する減速G(=砂から受ける抵抗)の変化パターンは、過去に行われたペネトレータの貫入実験と定性的に近いものとなった。 3)粉体からペレットを作成する油圧プレス機をCNE流体の状態方程式を同定する実験装置として導入した。既存の水平発射型バリスティックレンジに鉛直曲がり管部を追加し、垂直下方発射とする改造を実施した。さらに、衝突時に発生する爆風を可視化するためのシュリーレン光学系を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、圧縮するが膨張はしない(CNE)流体モデルを用いてペネトレータの地中貫入を数値シミュレーションする手法を開発する。2019年度は1)砂をCNE流体としてモデル化する方法の開発、2)ペネトレータの運動と連成解析できるCNE流体解析コード開発、を目的に研究を行った。 1)では、圧力を密度の非線形多項式関数で表現すれば硬化を含む圧縮過程が表現できることを数値シミュレーションで確認した。成形金型に砂を投入し、油圧プレスで圧縮する際のプレス圧とピストン進行長を計測して、密度と圧力の関係が得られることを見出し、粉末成形用の油圧プレス装置を導入した。 2)では、CNE流体数値解析コードをペネトレータに固定した運動座標に拡張し、鉛直に貫入する円筒型ペネトレータの運動と砂の挙動の連成解析を行った。衝突によってペネトレータにぶつかった砂が側方に押しやられ、ペネトレータ側面に砂が触れないことなど、定性的に妥当な結果が得られた。速度に対する減速G(=砂から受ける抵抗)の変化では、衝突直後から減速度が急上昇し、ピークに達した後に減速とともに減速Gも減少していく結果が得られた。これは、過去に行われたペネトレータの貫入実験と定性的に近いものとなった。今後、これを原型として、貫入中に姿勢角や進行方向が変化するような、より一般的な状況に対応できる解析コードへ拡張していく。 さらに、比較検証用実験データを得る装置の整備を進めた。重力の影響を避けるため、鉛直下方にペネトレータ模型を発射することができるよう、既設のバリスティックレンジに曲がり管を追加して改修を行った。これにより、氷やセメントのような固体だけでなく、砂箱に入れた砂などもターゲットとして衝突貫入実験を行うことができるようになる。 以上をまとめると、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度で、数値解析については、CNE流体モデルによるペネトレータの運動とその周りの砂の流動の連成、実験については、油圧プレスによる圧力と密度の状態方程式同定と、鉛直下方発射による粉体ターゲットへのペネトレータ貫入、を行う準備が整った。2020年度はここを出発点として、計算や実験ケースを増やし、数値計算法を汎用性の高いものに仕上げていく。 連成解析では、定式化がシンプルなペネトレータに固定した運動座標による手法を選択した。現状では鉛直深さ方向の1次元運動による軸対称流れ場を仮定しているが、これを鉛直面内の斜め運動や姿勢変化に適応できるように拡張する。別の手法として、地面に固定した動かない座標・メッシュ系での計算と、ペネトレータ周りの加速度運動する座標・メッシュ系での計算を同時に行う重合格子法が考えられるが、汎用性や計算効率の観点から、両者のうちどちらかを選択し、開発を進めることになる。 油圧プレスを用いた状態方程式の同定については実験を繰り返し、信頼性、再現性の高い結果を得るためのノウハウを獲得していく。鉛直下方のペネトレータ貫入実験については、これまで経験がないため安全確保を第一に試運転と装置改良を重ねていく。数値シミュレーション結果の検証では、貫入深さやクレータサイズなどの計測値に加え、貫入途中の機体と砂の挙動に関する画像データが必要である。そのための高速ビデオ、光源など可視化系の整備を行う必要がある。 以上から、1)油圧プレス実験によるCNE流体としての状態方程式(密度と圧力の関係式)の同定、2)それを入力とした数値シミュレーション、3)ペネトレータ貫入過程や最終貫入深さ、クレータ径などを貫入実験結果と比較、4)モデル及び数値解析コードの改良、という一連の研究の流れを確立させる。
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