研究課題/領域番号 |
19H02341
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
津江 光洋 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50227360)
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研究分担者 |
中谷 辰爾 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00382234)
藤原 仁志 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 航空技術部門, 主任研究開発員 (40358453)
岡井 敬一 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 航空技術部門, 主任研究開発員 (00358516)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 燃焼不安定性 / ジェットエンジン / バイオ燃料 / 非線形解析 / モード分解 |
研究実績の概要 |
本年度は室温風洞試験および高温度風洞試験を実施するためのジェットエンジンのエアブラストアトマイザを用いたパイロットバーナおよび燃焼容器の設計製作を実施した.高温高圧雰囲気においても光学測定を可能とした.作成された実験装置を使用し,東京大学室温大気圧風洞設備,東京大学高温高圧風洞設備,JAXA実圧実温環境を用いたJet-Aおよびバイオ燃料の基礎燃焼試験を実施した.風洞の始動,水素トーチによる点火,定常実験の実施までのシークエンスを構築し基礎実験を実施した.スワール数を変化させた複数のスワーラを準備し,燃焼形態の変化を確認した. 室温大気圧,高温高圧試験において,レーザ干渉画像液滴径計測法(ILIDS)の光学系の構築を行い,エアブラストアトマイザ方式における液滴径分布の測定しザウタ平均粒径を求めた.希薄燃焼試験を実施し,得られた圧力データに対してウェーブレット変換による解析を実施した.大気圧室温試験において,ヘルムホルツモードの周波数をもつ信号の非定常挙動を測定することができた.同時に高速度カメラを用いたCH*化学発光測定を実施し,固有直交分解や動的モード分解手法の適用した.画像データを用いたデータ駆動型アプローチにおいても固有の周波数をもつ特徴量を抽出することができている.今後,燃焼不安定性メカニズムを解析する線形手法の構築を行った.また,高エンタルピー風洞を用いた燃焼試験を実施した.圧力計測手法や工学測定手法を高エンタルピー風洞を用いた基礎試験にも適用し,測定法の有効性を確認した. JAXAの実圧実温環境試験設備においてRQL燃焼器を用いてJet-AおよびHEFA燃料に対して燃焼試験を実施した.高速度カメラを用いた画像測定に加え,すす濃度や窒素酸化物濃度が測定され,燃料の違いによる環境負荷物質の生成挙動が示されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,室温大気圧環境,高温高圧環境,実圧実温環境におけるジェットエンジンモデル燃焼器内で観察される非定常燃焼挙動と明らかにすることを目的としている.その目的に対して,3種類の実験設備を用いることで,雰囲気環境を変化させながら研究を実施することで,燃焼不安定性メカニズムを詳細に調べることを目指してる.本年度において,これらの実験設備の立ち上げおよび実験実施手順を確立した.すべての実験環境において基礎試験を実施することができた. 計測において,レーザ干渉画像液滴径計測法(ILIDS)の光学系を設計構築し,測定手法の確立および解析プログラムの作成を行った.高速度カメラを用いて得られた画像を用いることで,高速流動中の液滴径を干渉縞挙動から測定することができた.液滴測定が効率よく実施できる噴霧領域を同定し,妥当な液滴径分布やザウタ平均粒径を得ることができた.これらの手法は今後パラメトリックな実験実施時に解析手法を応用することができる. また,化学発光を用いた計測に関しても,同期制御や得られた一連の画像の解析プログラムを構築できている.線形モデルを用いた固有直交分解や動的モード分解,ガボールフィルタを用いたモード分解の解析プログラウの構築が完了した.今後の計測に応用することが可能である.また,これらの解析手法およびプログラムをベースにいくつかのスパース推定手法や非線形解析手法を組み入れ発展させていく. 以上,今後の研究を実施するのに必要な基本的な実験装置の製作,測定手法の構築および解析手法の確立を行うことができ,様々な環境下においてそれらの手法や実験の実施可能性を確認することができた.これらをベースに今後パラメトリックスタディを行うことで,ジェットエンジン希薄燃焼化における燃焼不安定性メカニズムの解析をスムーズに実施することが可能である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,燃料物性や化学反応特性が異なる従来燃料Jet-Aとバイオ燃料であるHEFAを用いたジェットエンジン燃焼器の高効率で環境負荷の少ない安定した燃焼状態の実現を目指し,希薄限界付近の燃焼メカニズムを調べる.燃料微粒化,流体力学,化学反応が相互に作用した非線形な系であるのに加え,雰囲気環境の変化によりそのメカニズムが異なると考えられている.それらを明らかにするためには高速で高精度な計測と高度な解析技術が必要である.本研究では,これらの現象を解析するため,噴霧挙動,流体挙動および燃焼挙動を複数の高速度カメラやセンサを用いて詳細に調べる.得られた時系列データに対してデータの低次元化手法を応用した非線形解析を実施する.前年度に確立した線形ベースのモード分解手法に加え,カーネル手法に基づく非線形解析を実施する.また,LASSOおよびエラスティックネットなどのスパース推定手法を適用することにより,高速度計測で問題となるノイズ成分の影響を軽減し,主要な現象を明確化することでメカニズムを明らかにする. これらの手法を用いることで,今後はJet-Aおよびバイオ燃料に対して,室温大気圧環境や高温高圧環境において,スワール数および当量比を変化させることでパラメトリックな計測を実施する.燃料の蒸発特性,反応特性,渦,音響などの特性の相互作用およびその遷移現象を特性周波数や時間に着目し調べる.現在は,パイロットバーナやRQL燃焼器に対して計測を行っているが,今後パイロットとメインバーナからなる多段燃焼器においても燃焼計測を実施する.それらの実験実施に向け,燃焼器の設計を同時に行う.実温実圧試験においては排気測定も実施する.燃焼不安定性に影響を及ぼす圧力,温度および燃焼ガスの密度比を変化させて計測を実施することで,ジェットエンジン燃焼器内の燃焼不安定性メカニズムを明らかにする.
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