研究課題/領域番号 |
19H02346
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田川 雅人 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (10216806)
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研究分担者 |
横田 久美子 神戸大学, 工学研究科, 助手 (20252794)
岩田 稔 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80396762)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超低軌道 / 原子状酸素 / 分子散乱 / 大気抵抗 |
研究実績の概要 |
レーザーデトネーション型原子状酸素ビーム装置は軌道上における原子状酸素と衛星表面の衝突速度を地上で再現できる唯一の方法である。本研究では国内で申請者のみが保有する3式のレーザーデトネーション装置の1台に固体表面で散乱された原子状酸素の検出装置を新規に追加し、その角度分散を計測する簡易的なシステムを構築する。本研究ではこれまでの材料劣化研究の成果を活用し、水晶振動子マイクロバランス(QCM)、あるいは電離真空計を散乱原子状酸素の検出器として採用する。Agあるいは炭化水素薄膜をコーティングしたQCMは原子状酸素センサーとしての実績が豊富で最も低リスクで目標が達成できる可能性がある。試料への入射する原子状酸素ビームをスキマーによって絞り、入射角を可変できる試料台と、試料周りに回転可能なQCMセンサーを設置することで原子状酸素の散乱分布計測という目的が達成できる。フルスペックの質量分析管システムに比較すると1/10以下の予算で目的を達成できる。FY2019年度にはシステム設計を実施し、FY2020年度には電離真空計をセンサーとする散乱実験装置を完成させ、システム評価を実施した。その結果、試作した散乱実験装置は分子線散乱分布を5度以下の分解能で測定可能であることが実証され、分子線散乱DSMC計算に対する検証実験に十分使用できることが確認された。本装置で実測した分子散乱分布をDSMC計算のリファレンスに適用できれば、超熱速度領域のDSMC計算結果に実験的な裏づけを与えることができるとともに、低大気抵抗衛星設計に関する基本的設計指針を得ることができるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では国内で申請者のみが保有する3式のレーザーデトネーション装置に固体表面で散乱された原子状酸素の検出装置を新規追加することにより散乱角度分散を計測するシステムを構築し、超熱速度領域の分子線散乱のDSMCに実験的な裏づけを与え、低大気抵抗衛星設計に関する基本的設計指針を得ることを目標とするものである。FY2019年度にはセンサーとして用いる電離真空計、水晶振動子マイクロバランスシステムを選定・購入、既存の真空チャンバーの改造とスキマーの設置、さらに本研究に不可欠となるサンプル・検出部同軸回転機構の詳細設計等が完了し、FY2020年度にはこれらのコンポーネントを用いたシステム設計、コンポーネント試験ならびにシステ試験を実施した。その結果、試作した散乱実験装置は分子線散乱分布を5度以下の分解能で測定可能であることが実証され、分子線散乱DSMC計算に対する検証実験に十分使用できることが確認された。特に、FY2019からFY2020年度に購入したアナログ検出系の高感度化のためのプリアンプ、アナログMCSとしての使用可能なデジタルオシロスコープは有効に機能し、アナログシステムではあるもののシステムの高精度化を実現できた。試料として標準的な宇宙機表面材料であるポリイミドを用いた分子線散乱実験では、低入射角度で予想より鏡面散乱に近い状態を示すことが明らかになったため、これらの新たな知見をDSMC計算に反映させ、DSMC計算の精度向上を図りつつある。現在、新型コロナウイルスによる渡航規制の影響等により、計画の若干の遅延が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
FY2021年度には、FY2019-FY2020年度に構築、評価が終了した分子線散乱計測システムを用いて、リファレンス材料の散乱分布に引き続き、各種表面材料での散乱分布の計測を行う予定である。これには低大気抵抗材料候補となる各種材料の分子散乱分布を計測と、ISSにより実際に宇宙環境に曝露された試料を用いて、散乱分布への宇宙環境の影響を評価することも含める予定である。これらの実験の実施が困難と判断される場合には、研究協力者である米国のMinton教授が保有する同様のシステムを用いての実験実施も考慮する。各種材料における散乱分布のデータベースが成功裏に取得できれば、このデータをベースとして低大気抵抗衛星の設計指針をDSMC計算により確立する。これまで用いてきた市販のDSMCソフトウエアでは散乱分布の設定の自由度が小さいため、DSMCソフトウエアのコード開発を実験と平行して行う。これらの研究計画は国内外での新型コロナウイルスの感染拡大状態に大きく依存する可能性があるため、状況に応じて臨機応変に研究計画の見直しつつ対処する。
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