研究課題/領域番号 |
19H02356
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
川村 恭己 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (50262407)
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研究分担者 |
岡田 哲男 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (10753048)
満行 泰河 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (40741335)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 構造安全性 / デジタルツイン / モニタリング / 海象推定 / 不確定性評価 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず第一に、運航中のモニタリングデータを用いた構造応答評価を目的とした2次元海象推定法の高度化に取り組んだ。前年度までに、応答スペクトルに関するパラメータ(0次及び1次モーメント)を用いて、ニューラルネットワークを用いた海象スペクトルの推定法を検討したが十分な精度が得られなかった。そこで、本年度は推定精度を向上するために、応答スペクトルのデータそのものを用いて、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた推定手法について検討した。CNNの推定性能を検証するために、Ochi-Hubble型波浪スペクトルで表現した仮想海象データと、それに対応した理論計算された船体運動・構造応答データを準備し、それらを用いた学習を行った。学習したCNNを用いて推定精度の検証を行ったところ、精度良く波浪スペクトルのパラメータを推定できた。ただし、高周波な海象の場合に推定精度が低下したが、高周波領域では船体応答は小さいため、推定精度の低下は船体応答を再現するのに影響が少ないことが分かった。一方、本手法を実計測データへと適用した場合には、理論と実現象との応答の違いや各種不確定性の影響から、推定精度が十分でないことがわかってきた。今後、仮想データで学習させたCNNを実データに適用させる手法の検討が必要である。次に、本年度の第2の課題である計測データの不確定性の推定として、ホイッピング現象に着目し、波浪応答に重畳するホイッピング荷重の統計的な性質を検討した。実船計測結果によって得られた縦曲げ応力の時系列データから、ホイッピング波形を抽出するプログラムを開発するとともに、ホイッピングの発生頻度や大きさ等のパラメータを統計的にモデル化することで、海象の違いによるホイッピング現象の不確定性を表現することができた。今後これらの知見を用いた疲労強度等への影響の検討等を実施していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の第一の目的であるニューラルネットワークを用いた2次元海象スペクトルの推定法の開発に関しては、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた手法を開発することにより、大変精度の良い推定が可能になったことから、当初の計画以上の進展を見せている。一方で、本手法を実計測データに適用した場合には現状では十分な精度が得られていないことから、総合的にはおおむね順調に進展していると判断する。また、不確定性の検討については、ホイッピングによる付加的な構造応答の増加について統計的なモデル化を実施することができたので、こちらも順調に進展していると言える。以上のような状況であるので、全体的には、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進に関しては以下を予定している。 [1]本年度までに、仮想的な海象データと、それに対応するピッチ・ロール・ヒーブ・縦曲げ応力の応答スペクトルの仮想計測データを用いて、CNNを用いた海象推定手法の確立を行うことができた。しかしながら、実計測データには多くの不確定性が存在するために、実際の計測データに対して本手法をそのまま適用すると、精度の高い推定が難しいことがわかった。そこで、実データへの適用を目的として以下の検討を行う。 (i)本手法を水槽試験により得られたデータに適用を試みる。水槽試験のデータは実計測データと比較して不確定性は小さいと考えられるので、提案手法の適用性をまず実験データで検証する。 (ii)本手法を実データへ適用するために、理論により得られる応答と実計測よる得られる応答の誤差の統計モデルの構築を検討する。次に、それらの統計モデルを用いて仮想的な学習データを作成し、それを用いた海象推定CNNの構築を試みる。 [2]本年度までの実計測データの解析結果より、船体の実応力計測データには波浪応答に加えてホイッピング等の弾性応答の影響も大きいことが観察されている。本年度までに、弾性応答の統計的性質をある程度把握することができたが、データ数がまだ十分でないことから、今後はより多くのデータ解析を実施することにより統計モデルの高度化を行っていく。また、特にその影響が懸念される疲労強度への影響を累積疲労被害度の計算や実験的な考察を行うことにより明らかにしたい。
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