研究課題/領域番号 |
19H02370
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
上野 道雄 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (60358405)
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研究分担者 |
田口 晴邦 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (70344455)
宮崎 英樹 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (10415797)
塚田 吉昭 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (90425752)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海難事故 / 衝突回避 / 事故防止 / 安全基準 |
研究実績の概要 |
運輸安全委員会の海難事故調査報告書とこれらに関連する事故解析記録など多数の衝突事故データを収集したうえで、小型船舶や台船・押船など特殊な船・状況の事故を除いてデータの質の統一性を整えて本研究で用いる基礎データを整備しました。 収集した衝突事故データから船の主要寸法等の諸元のほか、事故の海域・航路等と見合い関係、衝突の危険を認識した時刻と船速・位置、衝突時の時刻と船速・位置、衝突回避のためにとった行動などを抽出しました。衝突の危険を認識した時点には、比較的余裕を持って避航できる状況から衝突が目前に迫った状況まで可変的に考えられますが、本研究担当者らのこれまでの海難事故解析における経験と知見を生かして事故報告書を読み解き、分析を進める中で対象とする時点を判断しこれをデータに加えました。そして、衝突の危険を認識した位置から衝突位置までの距離を推定し、この2点間の距離を各事故・各船に対する衝突回避に必要な距離とみなしました。 2年度目に実施する模型実験に必要な模型船を製作しました。対象船は近年の大型化で安全性が問題となりつつある大型コンテナ船としました。大型コンテナ船を選定した理由は、水面上構造が大きく風の影響を大きく受け、この影響は停止運動のような低速で特に顕著となるためです。プロペラは予算の制約上、2年度目に製作することとしました。 2年目以降に計画している数値計算のための船の停止および初期旋回運動のモデル化のための文献調査をおこないました。停止および初期旋回性能には主機出力の変化と舵力の干渉が大きく影響をおよぼすと考えられるため、主機出力と回転数変化が船の回避性能に与える影響に重点を置いて調査しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運輸安全委員会の海難事故調査報告書などをもとにした衝突事故データの分析の中間段階での結果とこれをもとにした衝突を防止するために必要な距離の解析結果は本研究の準備段階で実施した予備調査の結果をほぼ裏付けるものでしたので本研究の方向性が妥当であることを示していると考えられます。 2年度目に実施する模型実験のために製作した模型船の船型である大型コンテナ船は船型の詳細データが公開されており、実施を予定している停止実験のみならず基礎的な抵抗試験や自航試験に加えて平水中操縦性能試験や波浪中試験が海外の機関も含めて実施されている船型です。そのため、本研究で実施する基礎的実験のデータの妥当性を他の文献等から直ちに検証することができます。このことは本研究で実施する水槽実験を着実に進めるにあたって極めて有効と考えられます。 2年目以降に計画している数値計算のための船の停止および初期旋回運動のモデル化のための文献調査を事前におこない、特に緊急停止のためにプロペラ逆転発令からプロペラ逆転整定までの機関回転数の応答に関するデータや考え方をある程度事前に得ることができたことは数学モデルの構築に向けた足がかりとなるものです。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず数値計算のための船の停止および初期旋回運動のモデル化をおこないます。特に、プロペラ逆転による停止運動と初期旋回時のモデル化において、衝突事故報告等の資料から数値計算に必要な情報が得られるように運動モデルの簡略化をおこないます。停止および初期旋回性能には主機出力の変化と舵力の干渉が大きく影響をおよぼすと考えられるため、主機出力と回転数変化が船の回避性能に与える影響を考慮することに重点を置きます。 停止運動等のモデルは自由航走模型実験と数値計算との比較によって有効性を検証します。模型実験には研究担当者らが開発した舵効き船速修正およびプロペラ前進率・船速修正を用います。この手法は模型船に搭載したファンによる補助推力とプロペラ回転数を同時に制御することでプロペラ正転・逆転時を問わず近似的に実船相似の操縦運動を実現するものです。 模型実験で検証した運動モデルに基づき、各事故・各船に対する衝突回避に必要な距離を基準となる船速における回避距離に規格化します。規格化された各事故・各船に対する衝突回避に必要な距離と、各事故の状況すなわち事故海域と見合い関係等を考慮して規格化された各事故に対する回避に必要な距離を割り出します。このようにして求めた回避距離を用いると、ある停止・初期旋回性能基準をすべての船が満足したと仮定した場合に分析対象とした事故が回避できた割合を算出することができ、結果として船の性能と衝突事故低減率の関係を明らかにすることができると考えられます。 最終年度には、上記の結果を船種・主要目・機関諸元等と関連付けることで適用範囲の広い性能推定手法としてまとめ、就航船の実績に基づき実現性と実効性のある船の性能基準を提案します。
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