研究課題/領域番号 |
19H02386
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
田中 健次 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (60197415)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 想定外事象 / FMEA / ノンテクニカルスキル / 医療安全 / 未然防止 / リスクマネジメント / リスクコミュニケーション |
研究実績の概要 |
想定外事象への対応を可能にするノンテクニカルスキルをより効果的にするためには、定常作業確立のための代表的テクニカルスキル、FMEAの実施が必須である。FMEAの普及が遅れている医療界で、参考となる典型例を作成し、誰でもがアクセスできる公開を目指しているが、医療作業はどこの病院でも類似の作業であるものの、微妙に作業内容が異なり、典型例の作成は容易ではない。FMEAを導入している複数の病院の医療従事者に意見を聞きながら、作成を進めている。同時に、間違えやすい事例の典型例の作成にも取り組んでいるが、双方共に作成途中である。また、FMEAを経て獲得したWAI(work as imagined)の明確化が、WAD(work as done)との差異の気づきに及ぼす効果を明らかにすることが目標の一つだが、WAIの明確化と一口にいっても、教育による浸透、チェックリストの作成など、様々な方法があり、明確化すること自体が難しい問題を含んでいることが分かり、まずはその方法を検討することに時間を割いた。 製造業では、設計段階にて、製造・運用・保全等の後工程での作業状況を考慮するために、インシデント・事故報告の活用を試みた。過去の報告内容を学習することで、再発防止ではなく未然防止につなげるヒントを得ることを試み、特にSafety2で着目しているポジティブなポイントを抽出する方法を検討したが、まだ試行錯誤の段階である。 社会インフラに関しては、商店街の店内や講堂などのイベント会場にてCO2濃度を表示することで、客や参加者が濃度の高まりによる換気の必要性を指摘し、客と事業主間のコミュニケーションに活用できることなどを実証実験により確認した。さらに複数測定結果の遠隔監視の効果を調べ、行政対応を可能にするネットワーク化のソフトを開発、次年度の実証実験に結び付けることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
医療界での取り組みには、日本医療機能評価機構等でNTSの導入教育を実施している長谷川剛先生(上尾中央病院)や辰巳陽一教授(近畿大学)から、継続して助言を得られているが、複数の病院関係者からの聞き取りでは、新型コロナウィルス対応で多忙であるために対面での意見交換ができず、ネットでの情報交換にとどまり、その時間も十分には取れなかった。 産業界も在宅勤務などで、直接の意見交換が難しく、今年度は、既に公表されているインシデント報告データベースからの解析方法に重点を置き、機械学習やデータ解析を専門とする坂東幸一研究員の協力の下で分析方法を検討するに留まった。 社会インフラに関しては、コロナウィルスの感染防止策の一つに、CO2濃度測定による換気の推奨があり、その実現に、市民・事業主・行政が絡むことから、本研究の狙いと同じ枠組みとの観点で、この問題を利用した。石垣陽特任准教授の協力を得て、実際に調布市内の商店街や大学でのイベントを利用した簡易機器による濃度測定、測定結果の表示、その活用までをモデル化し、その実証実験で、3者のコミュニケーションのあり方に関しての展望はつかめた。しかしそれを、実際の社会インフラの問題に適用しなければならず、それは次年度の課題として残された。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度、医療界にては、参考となるFMEAの典型例や誤り事例の閲覧を可能にするデータベースを構築、公開するとともに、FMEAにより獲得したWAIとWADとの差異の迅速な気づき、その後のルール変更などへの活用の仕組みを構築、ガイドラインを作成する。 製造業に関しては、設計と運用・保全活動との乖離を防ぐために、過去の事故報告を基に設計段階にて未然防止策が可能となるデータ解析方法を確立し、運用上でのNTS適用機会の削減と、確実なNTS実施を推進するためのポイントを整理する。 社会インフラに関しては、問題の気づきとそれを対処する組織とのコミュニケーションのあり方を検討し、特にSNSによる情報共有をベースにした仕組みをモデル化し、市民と行政をつなぐネットワークの実現に向けた標準的な方法の提案を試みる。 そして、これら医療界、製造業界、社会インフラを対象に考察してきた、TSとNTSの連携の在り方を統一モデルの中に位置づけ、共通的なメカニズムを明らかにする。統一モデルでは、設計と運用(製造・保全を含む)に大きく分け、運用時に実施されたNTSの内容を設計に活かすための情報共有、設計側へのフィードバック方法を構築する。一方で、NTSの実施結果を活用し、設計側が自主的に記録やアクシデント報告集から情報を獲得する仕組みをAI、学習機構により考え、設計側が、運用上のNTSの実施を推進できる仕組みを考える。以上の研究成果を標準化あるいはガイドラインの提案につなげ、現実社会にての実利用につなげる。
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