毎年甚大な人的・物的被害をもたらしている表層崩壊の発生場所とタイミングを精度よく予測することは社会的に強い要請である。既往の表層崩壊予測モデルでは土層内の水移動のみを考慮してきたが,近年の研究によりいったん土層から基岩層へ浸透した水が土層へ復帰し,土層内の地下水位に影響を与えていることが明らかになってきた。本研究では,詳細な地下水位,水温,水質観測により,基岩層から土層への復帰が土層内の地下水位の時空間的変動に与える影響を明らかにする。また,土層・基岩層内の水移動を特徴付ける水分特性(飽和透水係数および保水性曲線)を計測し,基岩層も含めた浸透流解析と斜面安定解析を組み合わせることで,基岩層を介した水移動を組み込んだ新たな表層崩壊予測モデルを開発することを目的とする。 本年度は,研究実施計画に沿って,[1]土層・基岩層内の地下水位,水温,水質の計測,[2]計測結果の解析,[3]浸透流解析による斜面内部の水の流れの再現,[4]新たな表層崩壊予測モデルの開発,[5]基岩層を介した水移動が表層崩壊に与える影響の評価を行った。 [1]を踏まえ,[2]を実施し,基岩層から土層への復帰が土層内の地下水位の時空間的変動に与える影響について整理した。そして,過年度に計測した土層・基岩層の水分特性を用いて[3]を実施し,得られた間隙水圧の分布を斜面安定解析に導入して安全率を評価することで,[4]の新たな表層崩壊予測モデルを開発した。しかし,[3]で得られた解析結果は,[1]で得られた計測結果を十分に再現できておらず,[5]を十分に実施するのは困難であった。これは,基岩層内に存在する亀裂の影響を十分に考慮できていないためと考えられ,本研究のさらなる発展のためには亀裂のサイズや連続性,分布等を把握し,それらが水移動に及ぼす影響を組み込む必要があることが分かった。
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