研究実績の概要 |
昨年度までの現地調査、トレンチ掘削調査(令和元年度予算繰り越しによる令和二年度実施分も含む)、土質試験などから、厚真町で発生した滑動型表層崩壊の崩壊・崩土の移動の概念として以下の仮説「地震時の繰り返しせん断によってEn-a層(飽和粘性土)の間隙水圧が上昇して有効応力が減少するとともに,En-a層が泥濘・軟化しEn-a層内部でせん断破壊が発生した。さらに,En-a層に含まれていた水が基岩との境界に供給され,水膜を形成した。その結果,En-a層と基岩との間の摩擦抵抗が減少して崩壊が発生し,崩土は泥濘・軟化したEn-a層を最下層として流下・氾濫・堆積した。」を提示した。 この仮説に基づき,小型振動台に搭載した斜面模型に不攪乱状態で採取した高含水率のEn-aブロックサンプルを乗せ,震源地近くで観測された地震データに基づく振動によって,En-aの間隙水圧がどのように応答するのかを調べた。実験条件は,斜面勾配10°,粘着力15.9kN/m2,内部摩擦角4.4°上載加重20kg,非排水である。間隙水圧は最大地震加速度近傍で急上昇し,その後少し遅れて最大値を示したが,震度法を用いた簡易斜面安定計算では,最大地震加速度時に安全率は最小値を示すものの1を下回ることはなかった。地震動による地震力と間隙水圧の上昇による有効応力の減少だけでは緩勾配斜面の崩壊を説明することが困難であることが分かった。 また、滑動型表層崩壊の崩土の移動形態は,質点滑動モデルで表現できるとしていくつかの崩壊事例において動摩擦係数を算出した。崩土底面とすべり面の粗さ(粗度)の組み合わせは,粒径の細かなもの同士の場合は泥濘・軟化によって崩土の滑動時に動摩擦係数がさらに小さくなるが,崩土の底面に粒径が大きく粗度の大きな段丘堆積層が存在する場合は、崩土の滑動時に動摩擦係数が大きくなり、結果、崩土の移動距離が斜面の比高に対して短くなった可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緩勾配火山灰堆積斜面での地震時崩壊メカニズムについては、これまでの調査から、以下の仮説を提示することができた。 「地震時の繰り返しせん断によって飽和粘性土の間隙水圧が上昇して有効応力が減少するとともにその層が泥濘・軟化し層内部でせん断破壊が発生し、層内に含まれていた水が基岩との境界に供給され,水膜を形成した。その結果,その層と基岩との間の静止摩擦係数が減少して崩壊が発生した。崩土は泥濘・軟化した層を最下層とし、て流下し、崩土底面とすべり面との粗度の組み合わせが小さい場合は、長距離まで氾・堆積した」
令和2年度は、振動台を用いた実験によって、上記の仮説を限られた実験条件ではあるが、ある程度説明できるまでに到達できた。また、崩土の長距離移動のメカニズムについては、これまでの成果をもとに、一次元運動モデルを作成した。そのモデルで用いる動摩擦係数について、崩土底面とすべり面との堆積層の粗度の組み合わせが重要であるという仮説を提示し、いくつかの事例において、崩土の流下・氾濫・堆積地形情報などから動摩擦係数の値を整理できた。
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