研究課題/領域番号 |
19H02404
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井口 正人 京都大学, 防災研究所, 教授 (60144391)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 火山噴火 / マグマの貫入速度 / マグマの噴出速度 / 火砕流シミュレーション |
研究実績の概要 |
1987年の桜島南岳の活動期における地盤変動を再解析し、マグマの貫入速度と噴出速度の関係を調べた。マグマの貫入速度と噴出速度の間にはおおむね正の相関があり、貫入速度が大きいときは噴火規模も大きくなるといえる。この時期には、ブルカノ式噴火、非ブルカノ式噴火、ストロンボリ式噴火、火山灰連続放出の4種類の噴火が発生している。ストロンボリ式噴火と火山灰連続放出のマグマの貫入速度と噴出速度は、ブルカノ式噴火、非ブルカノ式噴火よりも小さい。このことは、マグマの貫入速度によって噴火様式も予測できることを示す。一方、ストロンボリ式噴火と火山灰連続放出、また、ブルカノ式噴火と非ブルカノ式の間には、明確な差が見いだせなかった。 インドネシアの火山については、2017年に発生したバリ島のアグン火山噴火に先行する地震活動のエネルギーから噴出物量を評価した。地震エネルギーは10^11Jであることから、予測されるみかけ噴出物量は1億m3となった。この量は、2017年噴火で噴出した火山灰量と溶岩の量から見積もられる見かけ噴出物量の2倍程度である。また、1963年の同火山の火山灰量、火砕流、溶岩量を調べ、配分比を検討した。 火砕流、溶岩流シミュレーションの物性パラメータを変化させ結果を比較し両者の関係、パラメータの持つセンシティビティを評価した。加えて、メラピ、スメル、シナブンの各火山における実績と比較を行った。その結果、物理パラメータとして火砕流においては粒子間内部摩擦係数が、溶岩流においては溶岩の化学組成に依存する活性化エネルギーと温度が現象に対して支配的であること、また、それぞれ常識的な値を用いることに現象が説明できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
桜島南岳の解析については概ね、順調に進められた。特に、1987年後半の噴火活動については,11月17日に発生した南岳活動期としては最大規模の噴火に前後する。噴火活動について多くの知見が得られた。 桜島の大正噴火を始め、日本とインドネシアの火山における噴火に前駆する地盤変動と地震活動の推移を検討した結果、前駆過程において弾性変形が卓越する非破壊性変動から火山性地震が卓越する破壊性変形に推移することがわかり、標準モデルに新たな知見を加えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、桜島やインドネシアの火山を対象として地震活動や地盤変動などのモニタリングデータと噴出物の到達範囲の対応関係を調査し、データベースに取りまとめる。桜島のブルカノ式噴火による火山灰放出については、1990年代の過去のデータと最近の南岳噴火について、地盤変動の記録により噴火に先行するマグマの貫入速度を見積もり、噴火に伴う噴出速度との関係として整理する。また、火砕流についてはマグマの貫入速度と流下範囲から推定される火砕流の堆積量の関係を明らかにする。また、大正噴火など過去の大規模噴火においては、火山灰放出、火砕流、溶岩流などの発生時系列とそれらへの配分比を明らかにする。 インドネシアの火山については、メラピ、ケルート、シナブンなど最近噴火が発生した火山を引き続き対象として調査を行う。これらの火山噴火についても、火山灰放出、火砕流、溶岩流などの発生時系列とそれらへの配分比を詳しく調べて、噴火事象の時系列を配分比の標準モデルを作成する。 火山噴火標準モデルから想定される火山灰放出、火砕流、溶岩流などの発生時系列を連鎖的事象の組み合わせ(イベントチェーン)として数値シミュレーションには既存の火砕流や溶岩流流動のシミュレーションプログラム(山下・他、1990;山田・他、1991)を使用し、噴火現象の規模、時系列、発生箇所などの計算条件を網羅的に設定したシミュレーションを実行し、結果のデータベースを作成する。
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