研究課題/領域番号 |
19H02413
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
酒井 政道 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40192588)
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研究分担者 |
花尻 達郎 東洋大学, 理工学部, 教授 (30266994)
粟野 博之 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40571675)
長谷川 繁彦 大阪大学, 産業科学研究所, 招へい准教授 (50189528)
中村 修 岡山理科大学, 研究・社会連携センター, 教授 (60749315)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピン流 / スピン緩和 / スピン拡散長 / 電子-正孔補償金属 / 電子-正孔交換相互作用 / ハンル効果 |
研究実績の概要 |
(1)スピン反転を伴うBaber散乱(電子-正孔衝突)をスピン緩和の要因と考えて、スピン交換相互作用をつうじて連携し合うスピン輸送の特長をBoltzmann輸送方程式にもとづいて理論的に明らかにした。その結果、有効スピン拡散長が有限値を示す散逸モードとそれが無限大を示すスピン無損失モードの2種類が生じることが分かった。 (2)2020年度に作製したHall-bar素子を用いて、スピン偏極電流注入下におけるYH2のHall効果の温度依存性を調べた。注入電極として用いた希土類遷移金属フェリ磁性体の磁気補償温度を境にして、YH2の異常Hall効果的信号の極性反転が観測された。このことから、異常Hall効果的信号が漏れ磁場の影響でなくスピン注入由来であると云える。 (3)スピン偏極電流注入下におけるHall効果測定を非対称形状のHall-bar素子を用いて室温下で行い、スピン流の拡散長を評価した。2021年度ではこれまでとは異なり、Hall電圧検出電極を、一方のスピン注入端子から充分離れた位置に配置するようにして、その注入端子からの影響を排除し、もう一方の注入端子からの影響だけを検出するようにした。その結果、異常Hall効果信号が注入端子からの距離に対して指数関数的に減衰することが明確に観測され、スピン拡散長(約40μm)を決定することが出来た。 (4)Hanle効果に注目した。すなわち、弱い磁場をスピンの向きに対し垂直方向に印加して、スピンを歳差運動させて、Hall電圧を測定した。2020年度に製作した対称形状のHall-bar素子では、0.1 mT以下の磁場領域でHanle的信号が観測されるのに対して、2021年度に新規に製作した非対称形状のHall-bar素子ではそれが観測されなかった。垂直磁化膜電極がチャネル領域に漏らす静磁場の空間分布がスピン歳差運動を妨げていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の終了時点で計画していた内容は以下の4項目であった: (1)スピン反転を伴う電子-正孔散乱をスピン緩和の主要因子と考えて、スピン交換相互作用をつうじて連携し合う電子-正孔スピン輸送の特長をBoltzmann輸送方程式にもとづいて理論的に明らかにする。 (2)Hall-bar法にもとづくスピン偏極電流注入下における比抵抗およびホール効果測定を複数の異なる温度下で行う。特に、数10 Kの温度下では、Baber散乱が運動量緩和の主要因となるので、運動緩和時間とスピン緩和時間が同程度になる。したがって、上記(1)の理論計算の仮定(運動量緩和時間<<スピン緩和時間)が成立しなくなり、理論計算の予測と異なる測定結果が期待され、上記(1)理論計算の妥当性を検証することが出来る。 (3)Hanle効果を用いてスピン拡散長の直接測定を行う。電流注入の伴わない非局所スピン注入法を用い、外部磁場をスピンの向きに対して垂直方向に印加して、スピンを歳差運動させて検出磁性電極によってHnale信号を測定し、スピン拡散長を評価する。このとき、スピン注入源の磁化容易方向が、磁性膜面直の場合と面内の場合の両方について実験を行う。 (4)調査対象はこれまで専らYとYH2であったが、第3年目(2021年度)では、Yより原子番号の小さいSc、ScH2、およびC(グラファイト)に、また原子番号の大きい材料としてYbおよびPtに注目する。 2021年年度では(1),(2),および(3)について実施できたので、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)2021年度では電子および正孔スピン偏極電流の同時注入下における異常Hall効果測定を非対称形状のHall-bar素子を用いて、室温下で行い、スピン拡散長を評価した。その結果、YH2ではそれが約40μmであることが見出された。2022年度の実験では、昨年度に引き続き、異常Hall効果信号が注入スピン由来であることを判定するために、Hanle効果を測定する。すなわち、外部磁場を注入スピンの向きに対して垂直方向に印加して、注入スピンを歳差運動させながら、異常Hall効果による横電圧を測定する。その際、スピン注入磁性電極がYH2チャネル領域につくる磁場(これはスピンと同じ向き)はHanle効果を妨げるので、これを相殺するためのバイアス磁場を加えながら測定を行う。 (2)今後もスピン注入磁性電極として垂直磁化膜特性をもつ希土類遷移金属フェリ磁性体を使うが、これまでは、ソースおよびドレイン電極共に磁化の向きが同じであった(平行配置)。2022年度では、その向きを反平行配置にして、スピン注入下のHall効果測定を行う。反平行配置にすれば、2つの磁性電極がチャネルに齎す静磁場も相殺するので、Hanle効果が観測し易くなると考えられる。 (3)室温においてHanle効果が観測されたならば、スピン注入源である希土類遷移金属フェリ磁性体の磁気補償効果による影響を調べるために、温度依存性の測定を行う。 (4)電子-正孔補償金属として、YH2以外に、ScH2やYbを用いた研究に着手する。
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