研究実績の概要 |
これまでに液体ヘリウム温度下でのレーザードップラー振動計を用いた圧電効果測定技術を確立し、本研究課題で世界に先駆けて発見した磁気圧電効果が非常に低温に向かって増大することを見出した(Sci. Rep. 10, 7574 (2020))。一方で、低温下での実験を繰り返すにつれて、非常に低温においては試料固定(熱接触のとり方)が不十分だと、温度のゆらぎによる測定の不安定化が起きることがわかった。測定系のみならず試料固定法なども改善することによりこの問題を解決し、低温下での圧電効果測定法を確立させた。また、電磁石を用いた磁場下での計測も行えるように改良した。以上により、低温磁場下でのより詳細な圧電効果測定を可能にする実験研究設備が構築できた。 この測定系を用いて、ネマティック秩序やトポロジーといった新規な物理概念と相関した新圧電現象を開拓することを目指し、今年度は主としてマグネタイトにおける低温磁場下での圧電効果測定を行った。マグネタイトは低温で金属絶縁体転移を示し、低温相においてはトライメロンという複雑な秩序状態が発現することが知られる。低温相では対称性が破れるので圧電効果が発現することが知られていたが、我々の測定系を用いて圧電係数の詳細な温度依存性を初めて明らかにした。さらに、最低温で0.3Tの磁場を印加すると圧電係数が50%ほど減少することを明らかにした。方位を変えた実験を行うなど、再現性を含めて追加実験が必要であるが、これは非常に大きい磁場変化であり興味深い結果である。低温相の基底状態であるトライメロン秩序と関係している可能性もあり、理論的にも追及していきたい。
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