ナノダイヤモンド(ND)膜はND結晶粒とアモルファスカーボン(a-C)マトリックスとの間に無数の粒界が存在するため単結晶ダイヤモンドともa-C:Hとも異なる新奇な物性を発現する。その独自の光電子物性および機械特性を調査しその起源の解明を行った。主に以下の結果を得た。(1) 負電圧を有効に印加することにより硬度は多結晶ダイヤモンドと同等の85 GPaを達成した。これはカーボンイオンの運動エネルギーおよび密度が増加し、ダイヤモンドが生成するための過飽和状態がより高められたことに因ると考えられる。(2)ラマン分光法は非破壊の構造評価法として有効な手法であるが、a-Cとナノサイズのダイヤモンド結晶粒のコンポジットであるND膜において、通常のラマン分光法ではND結晶粒からの散乱光を観測することは極めて困難である。局所領域を高感度で検知できる近接場ラマン分光法を初めてND膜に適用して、ND結晶粒からのラマン散乱光を検知できることを実証した。(3)n型単結晶ダイヤモンド膜上に堆積された導電性ND膜を、円形伝送線路モデル理論を適用できるように、フォトリソグラフィにより中心円とそれを囲むリングの組み合わせを多数成形して、接触抵抗を正確に見積もった。従来のTi系電極の接触抵抗と比較して、約一桁小さな値と明らかな界面電位の降下を実証した。ナノカーボン中の粒界等を起源として多数のエネルギー準位の存在が、オーミック接触形成に大きく寄与していると考えられる。(4)沸騰する混酸に50分間浸したのち接触抵抗測定することを1セッションとして、これを繰り返し行うことで、耐酸腐食性を調べた。Ti系電極が1セッション目ですぐに剥離してしまうのに対して、ND電極は外観はほとんど変わらず徐々に接触抵抗が増加するものの6セッションまでTi系電極の初期の接触抵抗を下回ることを示し、ND膜が極めて高い耐酸腐食性を有することを実証した。
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