研究課題/領域番号 |
19H02438
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
池野 豪一 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30584833)
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研究分担者 |
山田 幾也 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30378880)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 計算材料科学 / 電気化学触媒 / エネルギー材料 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
次世代の大容量電池として有望視されている金属・空気二次電池の実用化にあたっては、空気極における酸素発生反応(OER)および酸素還元反応(ORR)の反応速度を向上させるための二機能性触媒の開発が必要不可欠である。本研究では、異常高原子価遷移金属イオンを含む複合酸化物を対象として、第一原理計算を用いてOER・ORR触媒反応の自由エネルギー変化および過電圧を評価し、その触媒特性を予測する。同時に同種元素からなる様々な構造バリエーションの化合物に対して系統的な評価を行い、体系的に整理することで、原子構造と触媒活性の相関を明らかにすると共に、新たなOER・ORR二機能性触媒の材料設計指針を提案する。 2019年度においては、まず結晶構造と遷移金属複合酸化物のOER触媒活性との相関を見出すべく、結晶構造から得られる情報(化学組成、結合距離、結合角度など)を説明変数としてOERの過電圧を予測する機械学習モデルの作成を試みた。その際、幾つかの説明変数を解析的な式を用いて組み合わせ、変数選択を行うことにより最適な予測モデルを自動的に作成するアルゴリズムを開発した。本研究で開発した手法により、結晶構造の異なる複合酸化物のOER過電圧を予測することができる汎用的なモデルの作成に成功した。 また、ポストスピネル型酸化物におけるOER触媒の理論過電圧の計算も進めている。これまでに、高いOER活性を示すCaFe2O4において、表面スラブモデルを用いた第一原理計算から、酸素欠損が理論過電圧の低減に寄与している可能性があることを付きとめた。更なる検討を進めることで高いOER触媒活性の起源を明らかにすることが可能であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶構造とOER触媒活性の関連については、情報科学的手法をうまく利用することで、適切なモデルを構築することが可能であることが分かった。特に、これまで酸素発生触媒活性と関連があるとされてきた指標は適用できる系(組成や結晶構造など)が限られるが、本研究で開発した予測モデルはデータ数を増やすことで任意の結晶構造を持つ系に適用できる。このモデルを使ってより高活性を示す物質を予測し、合成・評価を行うことで効率的な物質探索が可能となるものと期待される。 高活性触媒の反応機構の解明に関しては、第一原理計算を用いた理論過電圧の評価を進めている。考えられるモデルのバリエーションが多いため、現時点では取り扱う系の数が限られている。一方で、新たな反応機構が関与している可能性が示唆される結果が得られており、高活性触媒開発に向けた新たな知見が得られると期待できる。 また、共同研究者のグループにおいて遷移金属酸化物の高圧合成と触媒性能の評価も行っている。OER・ORR の他に、水素発生反応 (HER) に関しても評価を行い、高い触媒活性を示す化合物も幾つか見出すことに成功しており、着実に成果が挙がっている。
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今後の研究の推進方策 |
機械学習を用いたOER・ORR触媒特性の予測モデルを更に発展させる。2019年度に開発した手法を更に発展させ、解釈性の高い予測モデルを作成し、結晶構造の異なる複合酸化物の触媒活性を統一的に評価できる指標を発見することを目指す。また、得られた予測モデルを様々な結晶構造を持つ複合酸化物に対して適用し、より触媒活性の高い物質探索を行う 。 上記の方法で高活性が予測される結晶構造を対象として、試料の合成を行う。合成には固相反応法および超高圧合成法を用いる。得られた試料を対象として電気化学測定によるOER・ORR触媒特性の評価を行う。 2019年度に引き続き、高活性が報告されている遷移金属酸化物を対象として、OER・ORR触媒反応機構の解明を進める。これまでは真空中の表面を模したスラブモデルを用いて、熱力学的に安定な表面構造を求め理論過電圧を求めていた。今後は溶媒の効果をポテンシャルとして取り入れた計算を実施し、水溶液中での表面構造と安定吸着サイトを評価する。これにより、分子が吸着した反応中間体の自由エネルギーおよび理論過電圧のより高精度な計算を可能とする。
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