研究課題/領域番号 |
19H02449
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
廣本 祥子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, グループリーダー (00343880)
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研究分担者 |
山崎 智彦 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (50419264)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マグネシウム / アパタイト被覆 / ポリマー / 浸漬試験 / 腐食 / 細胞適合性 / 生体材料 |
研究実績の概要 |
Mg-Al-Zn(AZ31)、Mg-Y-RE(WE43)および純Mgを基材として、水酸アパタイト(HAp)被覆後に、2種類のアニオン性ポリマーおよび2種類の非イオン性ポリマーを修飾した。被覆表面にカッターでキズつけた後に疑似体液中に7日間浸漬し、溶液中のMgイオン濃度およびキズの形態観察を行った。粘性が高いアニオン性ポリマーを修飾すると、浸漬前のキズ周囲にHAp被膜の剥離がみられた。AZ31ではHAp被膜のひび割れや剥離は比較的小さかったが、純Mgでは被膜のひび割れや剥離が大きかった。 浸漬7日目のMgイオン濃度は、WE43からが最も小さく、AZ31、純Mgの順に大きかった。一方、ポリマーの種類による差は明瞭ではなかった。断面SEM観察より、キズの縁での金属の変形挙動は基材の種類で異なり、WE43では粒界滑りらしき変形の頻度が高かった。純Mgでは塑性変形が、AZ31では塑性変形と粒界滑りの両方が観察された。キズ周囲での被膜剥離の大きさと、キズの縁の変形挙動には明瞭な相関はみられなかった。HAp被膜の密着性は基材の組成によることがわかった。 カッターでキズを入れる方法ではポリマー間の違いが明瞭でなかったこと、ポリマーの種類により被膜の密着性が変化したため、被膜修復挙評価試験方法を変更することとした。サンプル表面に、先端を尖らせたセラミックス棒を一定力で押し付けて被膜を破壊し、その時流れる電流を計測するインデンテーション試験装置を設計・作製した。 細胞培養試験では、アニオン性ポリマーを修飾すると、カルボキシル基を架橋しても、細胞生存率が低下した。一方、2種類の非イオン性ポリマーでは、1種類は細胞接着・生存率に大きな影響を及ぼさなかった一方、もう1種類は細胞接着を抑制した。生体適合性の観点から、HAp被膜の自己修復/耐キズ性向上には2種類の非イオン性ポリマーが適していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していた、カッターであらかじめキズを入れたのちに浸漬試験を行う方法では、HAp被膜修復に及ぼすポリマー修飾の影響が明瞭に評価できなかった。疑似体液に浸漬し、定電位に保持したサンプル表面にセラミックス棒をインデンテーションして被膜にキズを付ける方法により、安定して基材の種類によらず同程度の欠陥を被膜に加え、電流減衰曲線(=被膜修復電流)を測定できる装置を設計・作製した。2020年度に入ってから、合金毎に適した保持電位、およびセラミックス棒の材質をいくつか試し、再現性のある電流減衰曲線の取得条件を検討した。このセラミックス棒の材質の検討に思わぬ時間がかかり、再現性のあるデータ取得ができるようになったのが2020年度の終り頃になってしまった。 その中で、2種類の非イオン性ポリマーはHAp被膜の修復を顕著に促進するわけではないが修復を阻害するわけではないことがわかった。さらに、減衰した電流が定常になった後の電流はポリマー修飾した場合の方がHAp被膜のみよりも低い傾向がみられたことから、修飾ポリマーは被膜欠陥部に堆積する腐食生成物の耐腐食保護性の向上に影響を及ぼしていることがわかった。 このように、当初計画とは異なる方法で被膜修復挙動を評価することにしたことにより、ポリマー選択の遅れを取り戻す体制ができてきた。一方、ポリマーの選択が遅れたために細胞接着性評価試験を計画通りに進めることができていない。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に、作製したインデンテーション試験装置で計4種類のアニオン性/非イオン性ポリマーがHAp被膜の修復電流挙動に及ぼす影響を検討する。インデンテーションに用いるセラミックス棒に適した素材を選ぶため、粗さの異なるセラミックス砥石とアルミナ棒を試す。また、アニオン性ポリマーは架橋によりフリーーのカルボキシル基を減らし、溶解性を低下できることから、架橋アニオン性ポリマーを修飾したサンプルでの細胞培養試験を行う。 2021年度は、非イオン性ポリマーの種類や修飾量などがHAp被膜の修復および細胞接着性に及ぼす影響を検討する。被膜修復の評価は、引き続きインデンテーション試験で行う。ポリマー修飾表面を所定の時間培養液に浸漬し、浸漬時間が細胞接着性に及ぼす影響を検討する。
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