研究課題/領域番号 |
19H02451
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
後藤 健 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (40300701)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | セラミックス複合材料 / 界面 / 相変態 |
研究実績の概要 |
SiC繊維は結晶性繊維の開発により1500℃以上の高温で使用可能となっているにも関わらず、これを用いたSiC/SiC複合材料は繊維の耐熱温度を十分に活かせていない。SiC/SiCの最高使用温度が低く抑えられている要因の一つに、繊維/マトリックス界面の接着強度を制御する繊維コーティングが低温で劣化し機能を喪失するという課題がある。そこで、より高温酸化雰囲気で安定であるZrO2による繊維コーティングをレーザーCVDにより実現することを本研究の目的とした。着目した理由は2点である。まず、ZrO2は熱膨張係数が比較的大きく、SiC繊維との間に熱応力が発生し、接着強度を弱めること。さらに、ZrO2は1000℃付近で体積膨張・収縮を伴う相変態(立方晶→単斜晶)を起こすため、コーティング施工温度とその後の熱処理条件を設定することで、残留応力を変化させることが可能となることである。本年度は繊維コーティング用レーザーCVD装置の製作と、プロセス温度によるZrO2コーティング繊維の特性の変化について調査した。レーザーCVD装置については、順調に製作を完了した。また、プロセス温度は700℃程度以下ではZrO2を生成することができないことが判明した。プロセス温度をあげた場合、1000℃では界面せん断応力がもっとも大きくなり、その後低下し1400℃で最低となった。X線回折による分析では作製温度が低い場合はt相のピークのみ見られるが、1000℃を越えるとm相が出現しており、ZrO2のt-m変態による界面せん断応力の低下の効果が発揮されていることが推定できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SiC繊維にZrO2をコーティングできることはすでに判明していたため、プロセス温度を変化させることで、ZrO2の結晶相の変化が発生することを期待して、研究に取り組んだ。その結果、最低温度700℃でははっきりとした結晶性は見られないコーティングが施工できたが、その後1200℃程度までは界面せん断応力が大きくなった。X線回折により、ZrO2の結晶はt相ができており、t-m変態を起こすことが期待できた。1400℃でははっきりm相が見られるようになり、t-m変態が起きていることが実証できた。また、同時に界面剪断応力も低下しており、結晶相の変態による内部残留応力を発生させることができていると考えられる。基本原理が働いていることを確認でき、第1段階はクリアしたものと考えられ、概ね順調に進捗している。今後は複合材料の力学特性を確認することによりさらなる繊維コーティングとしての実用性を示す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)レーザーCVD装置の構築:昨年度作成したレーザーCVD装置を稼働するようにする。昨年度計画通りに、原料粉末キャリアとしてアルゴンガスを併用し、酸素ガスの供給装置を有し、ロータリーポンプによる炉内圧力の制御が可能な仕様のCVD装置を製作した。同時に繊維束にコーティングするために、最大100mの移動距離を有する繊維ホルダ支持ステージを作製し、機能することを確認した。現有のレーザーを用いてZrO2コーティングを施工し、これまでと同等の特性を発揮することを確認する。 (2)レーザーCVDによるZrO2コーティングの施工:今年度は現有するレーザー光源を用いて、SiC繊維への酸化物のコーティングを施工する。施工厚さを変化させたZrO2コーティングを作製し、界面力学特性を取得する。 (3)SiC/SiCミニコンポジットによる各種力学特性の取得:昨年度に引き続き、ミニコンポジットを用いて、複合材料の力学特性や繊維―マトリックス界面の力学特性の取得を進める。接着強度を最適化したコーティング条件を得ることができた場合は、高温曝露後のミニコンポジットの各種力学特性を取得しプロセス条件を最適化する。
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