近年、金属間化合物のユニークな触媒機能が注目されており、我々は三元系のホイスラー合金において、Co2(Mn or Ge)がアルキン選択水素化特性に優れることを見出し、第四元素置換による触媒機能制御を実現した。しかし、高い選択性の起源と元素置換効果のメカニズムについては不明な点が多い。本研究では、粉末試料だけでなく薄膜試料なども用い、他の反応系もモデル反応に用いて多角的な視点から研究しメカニズム解明を目指した。 エピタキシャル薄膜試料について、粉末と同様にCo2FeGaの方がCo2FeGeより活性が高いが、どちらの合金でも(110)配向の方が(100)配向よりも高いという結果がこれまでに得られていた。一般論からは最密面の(110)面の方が低活性と予想されるが逆の結果だったためその原因を調べた。第一原理計算からは、(100)面ではCo終端面よりFeGe終端面の方が安定と予想され、純Feと純Geは非常に低活性であることから、(100)薄膜では低活性なFeGe層が主に表面に現れていたものと考察された。 選択性についても議論するために閉鎖循環系を用いた精密な触媒評価を試みたが、薄膜という低表面積試料のために、アルケンからの炭素析出による劣化と思われる現象によって正確な評価が困難であった。一方、粉末試料について重水素を用いたエチレン(C2H4)の水素化試験を行ったところ、Co2FeGeがHDやC2D4を生成した。したがって、C2H4が表面に吸着し、Hを切り離して替わりにDを取り込む交換反応が起きていることがわかった。Co2FeGeでは不活性なGeがアルケンの吸着を制限するために高いアルケン選択性が得られると考えていたが、アルケンは全く吸着しないわけではなく、吸着するがさらなる水素付加の活性化エネルギーが高いためにアルカンが生成しないことが示唆された。
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