研究課題
本研究では、大強度陽子加速器施設 物質・生命科学実験施設(J-PARC MLF、茨城県東海村)で稼働している最新パルス中性子回折装置SPICA(スピカ)を含む世界トップクラスの中性子散乱(回折)装置群と最新鋭オペランド実験機器を活用し、電池性能をフルに引き出すための“伝導イオンが高速で移動できるバルクおよび固―固界面構造”を明らかにする。そのため、全固体蓄電池に対して、オペランド中性子散乱(回折) 実験を行い、充放電中のバルクおよび固―固界面構造を精密に可視化し、伝導イオンの動きも直接観察する。さらに、得られた構造情報と最大エントロピー法(MEM)やBond Valence Sum(BVS)イメージング法を駆使することで、充放電中の変化を伴うバルク内のイオン伝導経路、さらには固―固界面内のイオン伝導経路についても可視化する。令和2年度は、オペランド中性子回折実験用のオペランドセルを作製し、SPICAを利用して全固体フッ化物イオン電池によるオペランド中性子回折実験を実施した。また、J-PARC MLFの中性子準弾性散乱装置DNAおよび作製した電場印加スティックを用いて、固体電解質材料の中性子準弾性散乱スペクトルの測定を行った。現在、本データの解析を進めている。一方、京都大学研究用原子炉(KUR)の多目的小型中性子回折計(VCND)を用いて、次のオペランド中性子回折実験に向けた予備実験も進めている。
2: おおむね順調に進展している
現在、J-PARC MLFで稼働している最新パルス中性子回折装置SPICA(スピカ)を含む世界トップクラスの中性子散乱(回折)装置群を利用し、全固体蓄電池もしくは蓄電池材料を用いたオペランド中性子回折実験およびオペランド中性子準弾性散乱実験を行う段階に達している。また、原子配列(構造)を精密に決定するリートベルト法(結晶構造解析)やリバースモンテカルロ(RMC)モデリング(非晶質構造解析)に加えて、蓄電池材料中のイオン伝導経路可視化技術として最大エントロピー法(MEM)やBond Valence Sum(BVS)イメージング法が利用できる状況となっている。さらに、上記のオペランド中性子散乱・回折実験を円滑に進めるため、京都大学研究用原子炉(KUR)の多目的小型中性子回折計(VCND)を利用した予備実験も可能となった。本研究成果は、国際ジャーナルJPS Conference Proceedings(2021年)に掲載された。一方、メカノケミカル法による新規蓄電池材料(主に、固体電解質材料)の探索も進めている。以上のような理由から、本研究課題はおおむね順調に進展している。
以下、今後の研究の推進方策について示す。(1)全固体蓄電池の構築と電池特性の評価:昨年度に引き続き、全固体蓄電池の構築と電池特性の評価を進める。今年度は、主に全固体フッ化物イオン電池を中心に進める。固体電解質ではCe0.95Sr0.05F2.95やBaSnF4、正極活物質ではBiF3、CuF2、Ag金属箔、負極活物質ではCe、Mg、Pb金属箔を選択する。オペランド実験を行う前に、電池部材の構造・ダイナミクス評価(X線回折、X線小角散乱、レーザーラマン分光、等)に加えて、充放電特性やサイクリックボルタンメトリー(CV)、交流インピーダンス測定等の特性評価を行う。なお、新規電池材料が見つかった場合には、随時使用する。(2)オペランド中性子回折・散乱実験:J-PARC MLF施設の最新パルス中性子回折装置(BL09 SPICA)および中性子準弾性散乱装置(BL02 DNA)を利用して、中性子オペランド実験(もしくは、電場印加実験)を行う。同時に、研究代表者が管理する京都大学研究用原子炉(KUR)のB-3実験孔に設置した多目的小型中性子回折計(VCND)を用いて予備実験を行う。また、界面構造の変化について調べるため、X線小角散乱実験を行う。(3)バルク構造およびイオン伝導経路の可視化技術の高度化:充放電中の固体電解質および正・負極活物質の構造変化、イオン伝導経路を可視化するためBVSイメージング法の高度化を進める。BVSイメージング法に必要な構造情報を得るため、結晶系ではリートベルト法、乱れた系では二体分布関数(PDF)法や逆モンテカルロ(RMC)モデリングを活用する。また、結晶系のイオン伝導経路可視化では、最大エントロピー法(MEM)も相補的に利用する。
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JPS Conf. Proc.
巻: 33 ページ: 011093
10.7566/JPSCP.33.011093