ナノポーラス金 (NPG) のアクチュエーション(電解液中で電位を付加すると変形する現象)を利用して、ヒト線維芽細胞から成る細胞シートの細胞接着方向制御を試みた。NPGを利用して作製したアクチュエータ上に細胞シートを形成し、最大約0.5%の比較的小さいひずみを周期的に印加した。その結果、細胞シートを構成する細胞は、周期ひずみにより明瞭に配向することが確認された。一方で、細胞シートではなく(シートを形成しない条件で)単純に細胞を培養して同じ周期ひずみを印加した場合、細胞は有意の配向を示さなかった。これらは細胞骨格を形成するアクチンフィラメント、また細胞接着分子であるフィブロネクチンの監察結果についても同様の傾向を示した。これらにより、個々の細胞にはない細胞シート特有の機械的刺激感受機構ならびに細胞配向があることを明らかにした。 細胞‐細胞間の結合を担うタンパク質である「p120カテニン」の細胞シートにおける発現量を免疫蛍光染色観察およびウエスタンブロッティングにより調べた結果、発現量は周期ひずみにより有意に増加することがわかった。p120カテニンは細胞膜においてカドヘリンと複合体を形成し細胞同士の接着を左右することが知られているが、細胞シートにおいてはこれに周期ひずみが影響することを明らかにした。 その他、フィブロネクチンのNPG上での安定性に関する分子~原子シミュレーション、ならびに細胞接着のモンテカルロシミュレーションなどを行った。
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