研究課題/領域番号 |
19H02461
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井上 裕滋 大阪大学, 接合科学研究所, 教授 (60373693)
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研究分担者 |
門井 浩太 大阪大学, 接合科学研究所, 准教授 (40454029)
鴇田 駿 東北大学, 工学研究科, 助教 (60807668)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ステンレス鋼 / 溶接金属 / 異相界面 / δフェライト / オーステナイト / レーシーδフェライト |
研究実績の概要 |
本研究では、オーステナイト系ステンレス鋼溶接金属中のδフェライトとオーステナイトの異相界面の性格制御に基づく高耐食溶接金属を創成するために、レーシーδフェライトの生成を促進させる材料設計・開発原理の構築を目的とする。 2年目となる2020年度は、2パスのレーザ溶接を適用し、2019年度の成果に基づいて作製したオーステナイトの成長方向を制御した1パス目溶接金属の上に2パス目のレーザ溶接を行うことにより、2パス目の溶接条件が溶接金属中のレーシーδフェライトの生成挙動に及ぼす影響を検討し、レーシーδフェライトの生成機構の解明を行った。 1パス目に2019年度に決定した最適溶接条件にてガルバノスキャナを用いたディスクレーザ溶接を行い、その溶接金属上に2パス目にファイバーレーザ溶接を行い、2パス目の溶接条件を最適化することで、レーシーδフェライトの生成比率を著しく増加させることができることを明らかにした。また、レーシーδフェライトの生成機構としては、①δフェライトがオーステナイトとK-S関係を満たして核生成する、②K-S関係を満たしたδフェライトとオーステナイトがその関係を維持したままエピタキシャル成長を続ける、③成長結晶粒の選択により、δフェライトとK-S関係を満たすオーステナイトが選択成長して異なるオーステナイトと置き換わる、の3つの機構が推測でき、本研究で実施した2パス溶接においては、これら3つの機構達成の可能性が高くなり,レーシーδフェライトの生成を促進させることが可能であることを確認した。 これらの成果については、溶接学会秋季全国大会において成果発表を行った。また、δフェライトとオーステナイトの異相界面の結晶方位関係を調査するための結晶方位解析装置を導入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶接金属中のレーシーδフェライトの生成を促進するために、2パスのレーザ溶接を適用し、2019年度の成果に基づいて作製したオーステナイトの成長方向を制御した1パス目溶接金属の上に2パス目のレーザ溶接を行い、2パス目の溶接条件を最適化することで、レーシーδフェライトの生成比率を著しく増加させることに成功した。また、レーシーδフェライトの生成機構としては、①δフェライトがオーステナイトとK-S関係を満たして核生成する、②K-S関係を満たしたδフェライトとオーステナイトがその関係を維持したままエピタキシャル成長を続ける、③成長結晶粒の選択により、δフェライトとK-S関係を満たすオーステナイトが選択成長して異なるオーステナイトと置き換わる、の3つの機構が推測され、本研究で実施した2パス溶接がこれら3つの機構によりレーシーδフェライトの生成を促進していることを確認し、当初の計画通りに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
レーシーδフェライトの生成を促進し、高耐食溶接金属が実現できる材料開発原理の構築を目的として、結晶方位を制御したオーステナイト上にレーザ溶接を行うことにより形成された溶接金属のδフェライトとオーステナイトの方位関係およびそれらδフェライトとオーステナイト間の異相界面性格を調査し、フェライト形態と異相界面性格との関連性を検討するとともに、δフェライト形態に及ぼすレーザ出力の影響を検討し、レーザ溶接条件適正化によるレーシーδフェライトの生成促進プロセスおよびδフェライトの核生成および成長時の結晶方位制御プロセスを構築する。さらに、得られた溶接金属の耐食性評価を行い、耐食性に及ぼすδフェライト形態の影響およびその支配因子を明確化する。これらにより、レーシーδフェライトの生成を促進させる材料設計・開発原理を構築するとともに、本研究による高耐食溶接金属創成プロセスの信頼性を検証する。また、これらの成果について、2021年度中に学術論文誌に2報程度投稿予定である。
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