研究課題/領域番号 |
19H02467
|
研究機関 | 大分工業高等専門学校 |
研究代表者 |
松本 佳久 大分工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (40219522)
|
研究分担者 |
湯川 宏 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (50293676)
南部 智憲 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (10270274)
池田 一貴 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (80451615)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 水素 / 金属物性 / 放射線,X線,粒子線 / 反応・分離工学 / 材料加工・処理 |
研究実績の概要 |
本研究ではバナジウムなどの5族金属で見られる延性-脆性遷移固溶水素濃度(DBTC)の発現メカニズムを解明するとともに,水素透過能と耐久性向上に有効な結晶および粒界(GB)構造を見出して,マリアージュ(調和効果)によって温和な運転条件下で作動可能な微細組織・構造を得ることを目的としている。そのため,中性子高強度全散乱装置により水素の空間配置の濃度依存性を明らかし,さらに高圧アロトロピー組織制御によりサブミクロンサイズ結晶粒にまで微細化したバナジウムや他の5族金属の水素拡散経路を調べ,水素透過流束の向上に寄与する因子を膜透過水素の可視化で調べることにしている。 初年度は,J-PARC/MLFの中性子高強度全散乱装置(NOVA)の試料ホルダーの耐熱・耐水素圧力性の改善を行った。具体的には試料ホルダーへのメタルシール設置と耐熱水素導入バルブへの置換等の改良を試みた。また純V製サンプルカップについては,高温水素負荷の際に,それ自体が水素脆性領域での運転による破壊が懸念されたため,サンプルカップ内外面への被覆材料の選定と最適被覆法についての検討を行った。実際,内面と外面では異なる被覆が施され,サンプルカップの水素透過性を極限まで阻止でき,また母相への水素溶解を防ぐ新たな複合断面構造が提案出来た。これにより,従来,試料ホルダーへのH2やD2の負荷圧力1MPaでは200℃加熱が限界であったが,これを315℃の耐熱性を得ての封止試験実施により,300℃で0.1H/Vや0.4H/VなどのDBTC前後の水素固溶状態での平衡水素圧力条件下で中性子散乱測定が可能な状態にした。 上記処理済みサンプルカップを用いた中性子散乱測定は,J-PARC/MLF(NOVA)のビームタイムの都合上,翌年度に実施するが,これに先立ち,評価対象試料の水素化速度試験も実施し,平衡水素圧力条件も見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた初年度の研究計画において,下記については目標を達成できたため。また一部の実施内容は,次年度以降計画の内容を前倒し実施しており,総合的に順調に課題を遂行していると自己評価している。その具体的根拠は,下記の通りである。 ①中性子散乱測定による水素の空間配置の解析に向けての,J-PARC/MLFのNOVA試料ホルダーの耐熱性改良の遂行と成功,②中性子散乱測定前のバナジウムおよびタンタル試料の水素化速度試験の実施,③高圧ねじり(HPT)加工及び高圧下率圧延による結晶粒微細化の実現と,メゾスコピック結晶領域での組織変化の様相把握,水素透過試験による水素透過性能の相違の把握,④バナジウムの巨大ひずみ付与加工や高圧下率圧延など加工プロセスの違いによって,熱処理後の結晶組織(再結晶集合組織)で出現する優先方位の特徴を明らかにした,⑤水素ガス透過の可視化に向けての取り組みでは,オペランド水素顕微鏡を用いた協働研究プロジェクトを物質・材料研究機構の先端材料解析研究拠点表界面物理計測グループと連携して次年度に実施できる体制を構築した。 尚,上記試料ホルダーならびに対策済みサンプルカップを用いた中性子散乱測定は,J-PARC/MLF(NOVA)のビームタイムの都合上,次年度に繰り越しとなっているが,その分,次年度以降計画の内容が前倒し実施されており,総合的に概ね順調に研究が進展していると考えている。 このように,初年度は同時並行的に一部次年度計画分も前倒し実施をしており,総合的には事業期間全体(3年間)の1/3を経過した段階で,研究実施計画(全体)に対して,その進捗率が総合的に35%程度であると考えているため,上記の進捗状況(達成度)の区分とした。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は当初の計画通り研究代表者が主体的かつ総括して遂行することにしているが,次年度についても引き続き,研究分担者の名古屋大学湯川助教,鈴鹿高専南部教授および高エネルギー加速器研究機構池田特別准教授の協力を得て共同で実施することになっており,各研究機関の特徴や課題解決に向けた得意分野をそれぞれの研究者が発揮することで,この研究をさらに進めていきたいと思っている。分担者の役割は明確であり,研究成果の達成に向けて一丸となって当該研究を進める合意形成が強固になされている。また代表者は分担者,協力者らと常に相互訪問による情報交換を行っており,本研究に関しても連絡調整は十分に行えている状況であるので,これを今後も有機的に活用したい。協力者の豊橋技術科学大学の戸高教授はは巨大ひずみ加工を各種金属材料に施してその特異な現象を発見していることに加えて,学術的裏付けをも検討するこの分野の第一人者である。当該課題においても引き続き超微細粒組織制御に関する多方面からの協力を頂くことの了解を得ている。また,物質・材料研究機構の板倉リーダーはオペランド水素顕微鏡による薄膜透過水素の可視化についての第一人者であり,早速,本研究課題の遂行に向けての研究プロジェクトを立ち上げて頂いた。このように,初年度に当初計画通りに研究チームの土俵作りを終えており,新しい知見や研究情報を得るための枝葉の研究も行いつつ,本研究課題を発展させたいと考えている。
|