研究課題/領域番号 |
19H02478
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
有馬 健太 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10324807)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Siシート / ウェットエッチング / 金属援用エッチング / Si表面 / ステップ/テラス構造 / 金属めっき / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、複数の固液界面プロセスを巧みに操った独自のウェットシーケンスによりSi結晶層を加工し、横幅が任意の設定値を持つH終端化Si原子層シートを自己組織的に創製することである。 本年度は、亜硫酸アンモニウムを添加して溶存酸素分子を除去した純水(以降、脱酸素水)に、微傾斜角を持つSi(111)基板を浸漬した。そして、基板表面にステップ/テラス構造(ステップ高さ0.3nm、テラス幅90nm)の形成を確認した。次に、Ag+イオンを付加した脱酸素水に上記の試料を浸漬し、エッジ部に沿って、選択的にAg微粒子(高さ約5nm、幅約15nm)が吸着することを確認した。最後に、このAg吸着Si基板をフッ化水素酸と過酸化水素水の混合液に浸漬した。タッピングモードでの原子間力顕微鏡観察により、Ag粒子の直下のみが選択的にエッチングされ、ミシン目状のナノ溝構造(深さ約2nm、幅約10nm)が形成されることを確認した。 実験を行う過程で、Si表面のテラス部分に予期せぬピット痕が形成され、ステップ端でのナノ溝構造の作製と評価を妨げるという問題に遭遇した。しかし、脱酸素水の酸素濃度を精密に計測・制御することにより、テラス上のピット痕密度が減少することを見出した。 また、最終的に埋め込み酸化膜層の上に形成したSi原子層シートの原子構造を計測・評価するため、超高真空中で動作する非接触原子間力顕微鏡の開発・整備を進め、半導体表面上のステップ/テラス構造を観察できることを確認した。このように最終的には、年度始めに提案した研究項目を着実に進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究で提案する四つのプロセスから成るトータル・ウェットシーケンスの熟成と高性能化を図ることを目的として、〔1〕原子平坦面から成るテラス/ステップ構造の形成、〔2〕ステップ端のみに選択的に金属原子を吸着する“めっき”プロセス、〔3〕原子ステップ端の金属ナノワイヤに沿った10 nm幅の溝加工、〔4〕非接触原子間力顕微鏡の開発を実施項目に掲げた。〔1〕のプロセス後に、Si表面のテラス上にピット痕が形成されるという予期せぬ状況に陥ったが、実験条件を見直すことにより、問題の解決に至った。そして、〔1〕~〔4〕の実験項目を遂行し、全体としては予定通りの進捗を得た。 また、本研究課題を研究協力者として遂行した指導学生(大学院生)が成果を複数学会にて発表し、2件の奨励賞を得るに至った。これは、本研究が順調に進行していることを表す客観的な指標であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の取り組みにより、提案するトータル・ウェットシーケンスに使える目途がついた。もちろん、吸着した金属原子がワイヤ状に繋がっておらず、結果的に、その後のエッチング工程で得られるナノ溝構造が連続的ではなく”ミシン目状”になるといった課題も残されてはいる。しかし次年度はまず、最終的なSi原子層シートを実現する上で不可欠な、Silicon on Insulator(SOI)ウエハを用いた実験に取り組みたい。市販のSOIウエハを構成するSOI層表面は平滑であるため、まずはSOI層表面に微傾斜角を設ける必要がある。それが実現すれば、本年度に培ったウェットシーケンスを適用し、SOI層を層ごとに切り分けることができるか、検証したいと考えている。またその過程で、ウェットシーケンス自体についても、実験条件を更に最適化し、プロセスの高性能化を図りたい。
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