研究課題/領域番号 |
19H02482
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
芹澤 愛 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (90509374)
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研究分担者 |
石崎 貴裕 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (50397486)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 導電性皮膜 / 耐食性皮膜 / アルミニウム合金 / ヘテロ構造 / 燃料電池用金属セパレータ |
研究実績の概要 |
安価で高効率な電池の開発には、電池全体の軽量化および低コスト化が必須である。セパレータは燃料電池スタック重量の80%程度を占めることから、軽量化効果が最も高い部位である。一方、強酸環境下でも耐え得る極めて高い耐食性ならびに発生した電流を隣接したセルに高効率で流すための導電性も必須である。このような材料要請の下、セパレータには表面処理を施した薄肉の鉄鋼材料が利用されてきたが、低炭素化、軽量性の観点から、セパレータへの軽金属材料の適用が期待されている。しかし、軽金属材料への導電性を有する耐食性皮膜を形成するための技術が確立されていないことから、軽金属製セパレータは実現していない。本研究では、鉄鋼材料の3分の1の密度を有するアルミニウム合金基材の導電性の向上および合金基材上に高耐食性と高導電性を兼ね備えた皮膜の形成に関わる技術開発を行う。研究指針は、申請者らの開発してきた水蒸気プロセスで形成される高耐食性皮膜中にカーボンナノ粒子を適切に分散させるための技術構築である。 本年度は、①ヘテロ構造皮膜の作製に最適なカーボン源の選択、②カーボン粒子の分散技術の開発、および③高耐食性・高導電性皮膜作製技術の開発を行った。①においては、アスコルビン酸を添加することで水蒸気プロセス中にカーボンナノ粒子が生成し、水酸化物皮膜中に均一に分散することを明らかにした。この結果、ヘテロ構造皮膜の導電率は水酸化物皮膜と比較して3桁向上した。②においては、表面活性剤としてアンモニアを添加することで、最も均一性の高いヘテロ構造皮膜が作製できることを明らかにした。③においては、アスコルビン酸を用いて作製したヘテロ構造皮膜に対して硫酸浸漬試験を実施した結果、48 h浸漬後も孔食は発生しないことを確認できた。以上のことから、均一性の高いヘテロ構造皮膜を作製した結果、導電性、耐食性ともに大幅に向上することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、①ヘテロ構造皮膜の作製に最適なカーボン源の選択、②カーボン粒子の分散技術の開発、および③高耐食性・高導電性皮膜作製技術の開発を実施した。 ①の研究項目においては、ヘテロ構造化が実現するカーボン源としてアスコルビン酸を決定できた。アスコルビン酸は、水蒸気源に添加することで水蒸気プロセス中に数十ナノメートル程度の粒径をもつカーボンナノ粒子が生成されることを見出した。このカーボンナノ粒子が水酸化物皮膜中に均一に分散することを皮膜断面の元素分析により明らかにした。この結果、ヘテロ構造皮膜の体積抵抗率は1.2×10^9 Ωcmであり、水酸化物皮膜の8.1×10^12 Ωcmと比較すると皮膜の導電性は3桁向上した。②の研究項目においては、表面活性剤としてアンモニアを添加することで、最も均一性の高いヘテロ構造皮膜を作製できることを明らかにした。③の研究項目においては、耐食性の評価を行った。アスコルビン酸を用いて作製したヘテロ構造皮膜に対し、pH = 3の硫酸水溶液にて浸漬試験を実施した。ヘテロ構造皮膜の48 h浸漬後の皮膜の膜厚の減少率は50%であり、さらに48 h浸漬後の孔食の発生はないことを確認できた。 以上のことから、均一性の高いヘテロ構造皮膜を作製した結果、導電性、耐食性ともに大幅に向上することを確認することができ、当初の計画以上に研究が進展した。これは、本技術を用いてセパレータ等の電池材料を製造する際アドバンテージとなることが考えられ、学術的にも産業的にも重要な知見であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、特定のカーボン源を選択することで水蒸気プロセスを用いたヘテロ構造皮膜の創製に成功しているため、本年度は、各種パラメータを変化させて作製したヘテロ構造皮膜の耐食性および導電性を評価することで、2つの特性が両立する作製条件を探索する。併せて、ヘテロ構造皮膜の構造解析により、耐食性および導電性の発現メカニズムを明らかにする。具体的には、下記の①~③の研究項目を実施する。 ①カーボン粒子の分散技術の開発:本研究で既に見出してたヘテロ構造化が実現するカーボン材料としてL-アスコルビン酸を選択し、蒸気源(超純水)へL-アスコルビン酸を添加することでヘテロ構造皮膜を作製する。水蒸気プロセスのみに限定せず、例えば水熱合成法を組み合わせたプロセスを柔軟に検討することで、通常の方法では界面を形成しづらい水酸化物/カーボン粒子ヘテロ構造皮膜の作製を行う。 ②高耐食性・高導電性皮膜作製技術の開発:研究項目①で実施した技術を用い、皮膜の形成過程中にナノカーボンをin situで形成させることで、耐食性を担保しつつ導電性を確保することをめざす。また、カーボン粒子の構造解析を行い、導電性の高いグラファイト構造を多く有するカーボン材料を選択する。導電性に関しては、合成した皮膜内のナノカーボンの分散状態や含有量と耐食性および導電性の関連性を調査する。耐食性に関しては、電気化学測定および強酸溶液への浸漬試験を用いた評価を行う。 ③高耐食性・高導電性の発現メカニズムの解明:①および②の研究項目で得られた結果に基づいて、高耐食性と高導電性を同時に付与するために重要となるプロセス因子を明らかにする。特に、カーボン材料の含有量および分散状態、そしてカーボンと水酸化物皮膜の界面状態をTEMを用いて解析し、どのような界面を形成すれば、導電性と耐食性を付与できるかを明らかにする。
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