安価で高効率な電池の開発には、電池全体の軽量化および低コスト化が必須である。セパレータは燃料電池スタック重量の80%程度を占めることから、軽量化効果が最も高い部位である。一方、強酸環境下でも耐え得る極めて高い耐食性ならびに発生した電流を隣接したセルに高効率で流すための導電性も必須である。このような材料要請の下、セパレータへの軽金属材料の適用が期待されているが、軽金属材料上に導電性を有する耐食性皮膜を形成するための技術は確立されていない。本研究では、鉄鋼材料の3分の1の密度を有するアルミニウム合金基材の導電性の向上および基材上に高耐食性と高導電性を兼ね備えた皮膜の形成に関わる技術開発を行う。研究指針は、申請者らの開発してきた水蒸気プロセスで形成される水酸化物とカーボンからなるヘテロ構造皮膜の作製である。 本年度は、①水蒸気プロセスによる水酸化物皮膜形成速度向上技術の開発、および②作製した皮膜の耐食性および導電性の評価を行った。①においては、これまで水蒸気プロセスで形成される皮膜の形成速度が小さいために緻密度が増加してしまい皮膜内部でのカーボン粒子の分散がやや困難であったこと、アスコルビン酸を水蒸気源に添加すると膜厚が増加しないことが課題であった。皮膜の成長を促進する物質としてアンモニアを見出し、水蒸気源にアンモニアを添加することで皮膜の成長速度を最大1.32倍増加させることに成功した。②においては、作製したヘテロ構造皮膜に対し硫酸浸漬試験を実施した結果、168 h浸漬後も孔食は発生しないことを確認できた。また、ヘテロ構造皮膜の導電性は、水酸化物皮膜に比べて4桁程度向上した。以上のことから、均一性の高いヘテロ構造皮膜を作製した結果、耐食性、導電性ともに大幅に向上することを示した。
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