本研究は,乱流抑制や弾性不安定など低濃度高分子溶液が複雑な流動挙動を示す原因を,流体中の「高分子と流体」間,および「高分子とその周囲の高分子」間に生じる力学的な相互作用の観点から,明らかにすることを目的とした.目的を達成するために,まず,流動場中に浸した高分子に起因する,高分子自体の流動抵抗を走査型プローブ顕微鏡と独自の流路を組み合わせることにより測定した.次に,流動抵抗を生じさせる流体中の高分子の形態を予測し,この形態をモデルとして,高分子がこのモデルで表される際に生じる流動抵抗を計算した.そして,モデルから計算される高分子自体の流動抵抗と,実測値を比較し,形態モデルの確からしさを検討した.また,高分子の形態には,周囲流体の影響,周囲に存在する高分子の影響を考慮した.周囲の状態を,注目する流体中の高分子の形態を決める際に組み込むことで,「高分子と周囲の流体」,「高分子とその周囲の高分子」の間に働く力学的な相互作用を検討した.
2020年度までには,注目する高分子の周囲に他の高分子が存在する場合の高分子の形態について検討し,モデルから得られる値と実測値の良い一致を見た.2021年度には,周囲流体の粘度,周囲流体中の高分子濃度,着目する高分子の種類や分子量を変え,その影響が高分子形態に現れる様子を検討し,モデルをより一般化した.また,高分子の流動抵抗に,高分子への水和が与える影響についても,振動解析により検討した.さらに,巨大高分子であるラムダ-DNAを用いた流動抵抗実験を行い,モデルから得られるラムダ-DNAの流動抵抗と,実験で得られた流動抵抗を比較した.DNAの場合も,モデルから計算できる流動抵抗と,実測値が近しい値をとることを確認した.
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