申請者らが独自に開発したシリカ硬殻マイクロカプセルにこれまで過冷却が大きいためほとんど実用化されていなかった無機水和物を内包したところ過冷却がほとんど生じないことが明らかとなった.この特異な現象のメカニズムに関して,本研究では逆Gibbs-Thomson効果仮説,水分子偏在仮説および気泡核生成仮説の3つの仮説をたて,いずれのメカニズムによって生ずるかを明らかにする. 前年度までの検討では,3つの仮説のうち,逆Gibbs-Thomson効果仮説,気泡核生成仮説は否定された.また水分子を含まない蓄熱材を内包すると,過冷却現象が観察されることから,無機水和物に含まれる水分子がシリカカプセルの内面に偏在するとした水分子偏在仮説水分子偏在仮説が有力であると考えられた. 水分子の偏在はゼータ電位に関連すると考えられる.シリカのゼータ電位は溶融蓄熱材のpHによって変化し,pH=2付近でほぼゼロとなり,pHが大きい場合にはその絶対値が大きい.そこで令和3年度においては,溶融無機水和物のpHと過冷却の関係について検討した.その結果,溶融状態でpH=8.6を示すリン酸水素2ナトリウム水和物の過冷却は抑制されるが,pH=1.8に近い値を示す硫酸アルミニウムアンモニウム水和物は20Kの過冷却を示すことがわかった.すなわちシリカのゼータ電位の絶対値が大きい場合,水がシリカカプセル内面に偏在し,結果としてカプセル内部の無機水和物の水和数が低下することによって部分的に凝固点が上昇し,これが凝固核を形成して過冷却が解消する水偏在仮説が正しいことが結論された.
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