現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究グループは両親媒性物質を使用せず, 糖アモルファスと難水溶性成分のみからなる固体分散体 (SAS-SD) を作製する技術を開発した.この固体分散体は難水溶性成分の水溶性を高度に改善するが, ガラス転移温度 (Tg) が低く保存安定性に乏しいことが分かっていた.また他の固体分散技術と同様に, 難水溶性成分の溶解時間にも改善の余地が大きかった.これに対して,SAS-SDを難水溶性成分の融点以上の温度で短時間熱処理すると難水溶性成分の対水溶解性, Tgともに改善することを明らかにした.さらに30 ~ 200°Cの温度で保存 (annealing) したときのSAS-SDの特性変化を調査した.Annealing温度・期間の異なる難水溶性物質の固体分散試料を作製し, それらの溶解挙動を測定したところ,最大の到達溶解度はannealing温度が高くなると低下するが,溶解を維持する期間が顕著に長くなる傾向が見られた.この難水溶性物質の溶解挙動の変化機構について基礎的な知見を得るためDSCおよびFT-IRにより固体分散試料の熱特性, 相互作用状態を評価した.まず, DSC測定より保存開始後すぐにTgの上昇が見られたが, その後一定になることが分かった.FT-IR結果より, annealingによって3300 cm-1近傍のOH伸縮振動由来のピーク波数 (νO-H) が高波数側にシフトすることが分かった.また, annealing温度が高いほどνO-Hが短期間で増加していた.これよりannealingすることで糖分子間の相互作用密度が緩和され, 糖分子がより安定な構造をとっていると考えられる.このことがSAS-SDの溶解性向上に関連していることが分かった.これにより,本研究の目的を概ね達することができた.
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