研究課題/領域番号 |
19H02501
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
木原 伸一 広島大学, 工学研究科, 准教授 (30284524)
|
研究分担者 |
滝嶌 繁樹 広島大学, 工学研究科, 教授 (10188120)
宇敷 育男 広島大学, 工学研究科, 助教 (30734850)
瀧 健太郎 金沢大学, 機械工学系, 教授 (70402964)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ポリマーナノコンポジット / ナノフィラーネットワーク / 超臨界流体混練 / 熱伝導性 |
研究実績の概要 |
本研究は、従来きわめて困難な30vol%以上の高濃度でポリマー中にフィラー分散し、フィラー界面間を部分的に100nm間隔以下の拘束領域にし、その界面領域の特性を顕在化させた機能性材料の創出を目指す研究である。具体的な目標は、① 微細な多数の泡を使った温和なミキシング技術の高度化、② ポリマー発泡を利用したナノフィラー群の三次元界面領域を形成する、従来の視点とは異なる、ポリマー系ナノコンポジット開発方法の提案であり、研究期間において、本プロセッシングを実証し、高熱伝導性や高断熱性ポリマーを創出することを目標としている。 本年度は初年度にあたり、作製する試料の主要な評価軸である分析機器の導入と再現性を確認した。他方で、要となる既存の高圧流体混練装置が破損し修繕が必要となったため、本装置のシール部を改良し耐圧性を20MPa程度まで高め、サンプル容積を1.5倍するなどの高圧セルを新たに設計・作成した。そのため予定していた実験条件の多くが実施できなかったが、装置の健全性と本研究開発の有効性が得られる以下の結果が得られた。(1)有機溶媒をもちいてCNTを浸漬・膨潤させ、前処理分散後、超臨界CO2雰囲気(20MPa以下)でポリマーに混練すると、前処理無しで観察されていたCNT未解繊の250 nm程度のバンドル径が、60 nm程度まで低減された。(2)より高いネットワーク性を示した試料は、CNTに欠陥導入が多いにも関わらず良好な熱伝導性を示した。(3) 今回の条件では、CNTの欠陥導入は前処理段階でほぼ決まり、超臨界混練では欠陥はほぼ増加しなかったことから、前処理を温和な条件にする必要があることが分かった。今後、さらに前処理条件を詰めて高濃度分散を目指す。他方でポリマーへの超臨界CO2の溶解性と拡散性については、官能基の異なるポリマーについて実験的に測定し、報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究遂行で要となる高圧流体混練装置の高圧セルのシール面が組み立てミスや経年劣化で破損したため、この不具合を解決するため高圧セル本体を再設計・作製しなおした。そのため、当初予定していた研究実施条件が少なく、高濃度ナノ炭素材料分散法の実験的検証が遅れている。しかし、今回の装置改良により製造できるサンプル量が1.5倍、20MPa近くまでの圧力保持の安定性を増すことができ、サンプル作製や多様なサンプル評価がより容易になった。本年度では、単層CNTの有機溶媒浸漬効果と前処理方法(フリーマイクロミキサ)を再検討し、改良した高圧流体混練装置をもちいて、10wt%までのCNT導入量でのポリスチレン(PS)へのCNT分散性をまずは評価した。その結果、有機溶媒濃度によるがCNTの解繊が進み、これまで多く見られた200~250nm程度の残存バンドルが60nm程度まで小さく解繊されることが判明し、良好な分散効果が確認された。また、有機溶媒は今回の混練温度では気化しており超臨界CO2を取り除く際の減圧発泡により表面積が増大するため比較的容易にポリマー相から除去でき、さらに得られた試料は、PS/CNT超臨界混練により従来得られている試料と同等以上の熱伝導性を達成できること、また、前処理でのCNT欠陥導入量は超臨界混練では増加しない結果も確認された。他方で、ポリマー種による可塑化効果などを検討するために、ポリマーの官能基種とCO2 との相互作用の違いを溶解度と拡散係数の測定から評価し、ポリマーへの拡散はCO2とN2によらず溶解度の関数として表現され、自由体積モデルで相関できることが分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
今回の結果は、CNTに欠陥導入が多いにも関わらず、解繊が進み、100nmを切った周密なネットワーク化により高い熱伝導性が得られたことから、バンドル化したCNTのアスペクト比がまず重要であり、それに伴うネットワーク化がフォノン熱伝導の損失低減に有効であることを示している。さらなる性能向上を目指すために、まずは前処理での欠陥導入量を低減させるマイルドな前処理条件を調整し、より結晶性の高い長尺なCNTに対する超臨界混練の最適化、また、より結晶性の高い別のpristine CNTを用いた場合に対しても同様の比較を通して、CNTに対する最適混練条件を明確にする。この最適条件はCNT周辺のポリマーマトリックスの可塑化に強く依存するので、順次有機溶媒/CO2濃度を調整することでCNT濃度を上昇させた場合へ適用できるように同様の検討を行う。次に、積層グラフェンを用いて同様の実験を実施し、高せん断場での積層グラフェンのexfoliation向上とCNTとの混合モルフォロジーから高熱伝導性を達成するベースとなる混練方法を明らかにする。本研究ではナノ炭素材料間の微細気泡成長によるナノ炭素材料間の濃密な接触化が重要な界面領域形成方法と位置付けており、その点の明確をバッチ発泡実験により検証する。高濃度ナノ炭素材料分散材なので、気泡成長は強く抑制されるので、非ポリマー相の微細領域にナノ炭素材料がより濃縮され、圧密化されるかどうかを検証するの当初計画を推進する。また、超臨界ガスのポリマーへの溶解度、拡散については継続して測定を行い、可塑化効果の影響についてより詳細に検討する。
|